こんにちは!ケンけんです。今回は、添加された体$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$が、ある剰余環との同型になることを考えます。
キーワード:剰余環との同型
必要知識:準同型定理
除法公理
今回示す事実は次のことです。
$\mathbb{Q}(\sqrt{d}) \cong \mathbb{Q}[X]/(X^2-d)$
左辺の$\mathbb{Q}[X]$は有理数係数の多項式環、$(X^2-d)$は「$X^2-d$」が生成するイデアルです。従って、示すためには多項式環について知っておく必要があります。
まずは、次の多項式環についての性質を使います。
$R$:単位的可換環 $R[X]$:多項式環
$f,g \in R[X]$ $\mathrm{deg}g < \mathrm{deg}f$
$\exists ! q ,\exists ! r \in R[X]((f=qg+r) \wedge (0 \leq \mathrm{deg}r < \mathrm{deg}g)$
これは、数での割り算を多項式環へ一般化した性質です。特に、一意性「$\exists !$」がかなり強い条件であることがわかります。今回は、多項式の未知数に代入するため多項式についての道具が必要なのです。
剰余環との同型
それでは証明します。
まず、$F:\mathbb{Q}[X] \rightarrow \mathbb{Q}$を次のように定義する。
$(\sqrt{d})(f(X) \mapsto f(\sqrt{d}))$
このとき、$\mathbb{Q}[X]$の加法と乗法の定義から$F$は環準同型写像であることがわかります。
次に、$\mathrm{Ker}F=(X^2-d)$を示す。
「$(X^2-d) \subset \mathrm{Ker}F$」について
$F(X^2-d)=(\sqrt{d})^2-d=0$より$(X^2-d) \subset \mathrm{Ker}F$
「$\mathrm{Ker}F \subset (X^2-d)$」について
$f \in \mathrm{Ker}F$を取る。
$f$と$X^2-d$について除法公理を使うと$$f=q(X^2-d) +aX+b$$とする$q \in \mathbb{Q}[X]$と$a,b \in \mathbb{Q}$が一意的にとれる。
$f \in \mathrm{Ker}F$より$F(f)=a\sqrt{d}+b=0$である。
従って、$a=b=0$となり、$f=q(X^2-d) \in (X^2-d)$
そして、$a+b\sqrt{d} \in \mathbb{Q}(\sqrt{d})$を取る。
このとき、$F(a+bX)=a+b\sqrt{d}$から$F$は全射である。
以上から、準同型定理より$$\mathbb{Q}[X]/(X^2-d) \cong \mathbb{Q}(\sqrt{d})$$
$\square$
$F$の環準同型性は、証明に記載したように多項式環での加法と乗法の定義するときの不定元$X$を$\sqrt{d}$に置き換えて全く同じことを確かめるだけなので省略しました。
結果からわかること
この表示についての問題は、最小多項式についての話につながります。
最小多項式は求め方がいくつかありますが、今回の問題からもわかります。採用する同値命題は次のものです。
$L/K$:体の拡大 $a \in L$ $f \in K[X]$
$f$は$a$の最小多項式$\overset{def}{\iff} (f:モニック) \wedge (f:既約) \wedge (f(a)=0)$
「多項式がモニックである」とは、最高次の係数が$1$であることです。
(例:$X^2+x+1$など)
「多項式が既約である」とは、他の多項式を約元として持たないことです。
(例:$\mathbb{Q}$係数で$X^2-2=(X-\sqrt{d})(X-\sqrt{d})$は既約)
話を戻すと、$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$について$\sqrt{d}$の$\mathbb{Q}$上の最小多項式は$f(X)=X^2-d$です。このとき、$X=\sqrt{d}$を代入すると$f(\sqrt{d})=0$となります。また、最高次係数が$1$なのでモニックです。従って、既約であることを調べる必要があります。
しかし、先ほど示した同型を考えるとすぐに理解できます。$$\mathbb{Q}[X]/(X^2-d) \cong \mathbb{Q}(\sqrt{d})$$
$\mathbb{Q}[X]/(X^2-d)$が体$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$と同型なので、$\mathbb{Q}[X]/(X^2-d)$も体になります。従って、剰余を考えているイデアル$(X^2-d)$は極大イデアルとなっています。多項式環の素イデアルは、既約な多項式で生成されるため、$X^2-d$が既約であることがわかります。
以上から、$\sqrt{d}$の$\mathbb{Q}$上の最小多項式は$X^2-d$であることが説明できます。
最小多項式であることを示すためには、既約であることが最も大変です。他に既約判定するための命題や定理も存在しますが、すべてのケースで使える道具はなく、その場その場で使い分ける必要があります。
なので、今回のような結論を得る方法も手段の一つとして持っているといいです。
おわりに
今回は、添加された体$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$の最後のトピックとして剰余環とのかかわりと最小多項式の判定について触れました。ここまで扱ってきた$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$は「二次体」と呼ばれ代数的整数論での単純な例として解く登場します。また、体論の観点では「単拡大」というもっとも単純な添加された体であり、問題を解くことや調べる訓練になるため$d$の部分を具体的に数を入れて調べてみるといいと思います。
以上、ケンけんでした。