RING-L-4:イデアル商についてのメモと課題

こんにちは!ケンけんです。

今回は、イデアル商について調べたことと、生まれた疑問と書いていきます。

キーワード:イデアル商

必要知識:イデアルの定義・素イデアル・準素イデアル

定義と動機

まず、主題のイデアル商を確認します。

定義

$R$:単位的可換環 $I,J \subset R$:イデアル

$(I:J)=\{x \in R| xJ \subset I\}$:$I$と$J$のイデアル商

本来、イデアルであることは自明ではありませんが、定義からすぐに示すことができます。

今回調べる動機となったのは、次の系です。

COLLOLALY3. If $\mathfrak{q}$ is $\mathfrak{p}$-primary and if $\mathfrak{a} \nsubseteq \mathfrak{p}$, then $\mathfrak{q}:\mathfrak{a}=\mathfrak{q}$.

D.G.NORTHCOTT, 1953, IDEAL THEORY, CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS

この系は命題で、$$(\mathfrak{q}:\mathfrak{p} \verb|-| 準素イデアル) \wedge (I \nsubseteq \mathfrak{p}) \Rightarrow \mathfrak{q}:I = \mathfrak{q}$$と書けて、イデアル商が$\mathfrak{p}$-準素イデアルになることを示しています。

従って、次のような疑問が生まれます。

問題

$R$:単位的可換環 $I \subset R$:イデアル

$(\mathfrak{p} :素イデアル) \wedge (I \nsubseteq \mathfrak{p}) \Rightarrow \mathfrak{p}:I= \mathfrak{p}$

準素イデアルのところを一般の素イデアルに置き換えただけです。

証明

一見面倒そうですが、証明は元の系より単純で素イデアルの定義を用います。

証明

「$\mathfrak{p} \subset \mathfrak{p}:I$」は、イデアル商の定義から明らかである。

従って、「$\mathfrak{p}:I \subset \mathfrak{p}$」を示せば十分。

$I \nsubseteq \mathfrak{p}$より、$x \in I \backslash \mathfrak{p}$が存在する。

$y \in \mathfrak{p}:I$について$yI \subset \mathfrak{p}$である。

従って、$yx \in \mathfrak{p}$である。

$x \notin \mathfrak{p}$より$y \in \mathfrak{p}$である。

以上から、$\mathfrak{p}:I \subset \mathfrak{p}$である。

$\square$

元の系では、準素イデアルの明らかでない性質をいくつか用いますが、素イデアルの場合は定義から導けます。

ちなみに、系も今回示した命題にも「$I \nsubseteq \mathfrak{p}$」の過程が入っています。これは、イデアル商の性質上、2つのイデアル$I$と$J$について$$J \subset I \Rightarrow (I:J)=R$$となってしまうからです。

疑問と課題

今、イデアル商の左側を準素イデアルや素イデアルを仮定していました。では、イデアル商が素イデアルだと言える場合はどうなるでしょう。

課題

$R$:単位的可換環 $I,J \subset R$:イデアル $J \nsubseteq I$

$(I:J)$:素イデアル(または準素イデアル)ならば$I$は素イデアル(準素イデアル)か?

というのも、$R$がNoether環の場合に随伴素イデアル($Associated prime ideal$)が$$\mathfrak{p}=\mathrm{Ann}_{R}(x)=(0:(x)) (x \in R)$$と定義されます。

つまり、単項イデアルのイデアル商が素イデアルの場合で既に使われています。

では、一般にイデアル商が素イデアルであるときの$I$側の条件は何だろうかということです。

例として、多項式環$\mathbb{Z}[X]$について考えます。

A.$I=(x+1),J=(x^2)$のとき

  1. $x+1$は既約より$I$は素イデアル
  2. $x^2 \notin I$より$J \nsubseteq I$
  3. 示した問題から$(I:J)=I$

結論:イデアル商は素イデアルになる。

B.$I=(x^2), J=(x^2-1)$のとき

  1. $I$は素イデアルではない
  2. $x^2-1 \notin I$より$J \nsubseteq I$
  3. $ab \in (I:J) \Rightarrow ab(x^2-1) \in I$
  4. $a=b=x$で(3.)が成り立つ。
  5. $a(x^2-1) \notin I,b(x^2-1) \notin I$
  6. $a,b \notin (I:J)$

結論:イデアル商が素イデアルではない。

この2つを見るに、やはり$I$が素イデアルであることは必要そうです。

おわりに

動機づけとなった本には、2つのイデアル$\mathfrak{p},\mathfrak{q}$について、

  • $\mathfrak{q}が\mathfrak{p} \verb|-| 準素イデアル$になる条件
  • $\mathfrak{p}$-準素イデアル$\mathfrak{q}$が満たす性質

を通して同値条件のようにふるまう補題が存在します。そのため、イデアル商の素イデアルなどについても同様のことが言えるのではないかと思います。

以上、ケンけんでした。

参考文献

D.G.NORTHCOTT, 1953, IDEAL THEORY, CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS

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