こんにちは!ケンけんです.
自由加群は,基底と直和を用いた集合的な定義をしてきました.
今回は,加群の構造を直接構成せず,特定の図式を満たすモノとして定義していきます.
本記事では,特に言及しない場合は以下の記号を用いる.
$R$:単位的可換環 $M$:$R$加群
以下の写像をクロネッカーのデルタ$\delta_{ij}:I \to R$と呼ぶ.

導入
自由加群の記事では,次の普遍性を証明していました.
$F$を基底が$X$とする自由$R$加群とし,写像$f:X \to M$の存在を仮定する.
このとき,以下を満たす$R$線形写像$g:F \to M$が一意的に存在する.
- 包含写像$i:X \to F$に対し,$f=g \circ i$が成り立つ.
つまり,以下が可換図式になる.

実はこの性質を満たす加群$F$を自由加群とする定義があります.
つまり以下の性質を先に定義します.
$X$:集合 $M$:$R$加群 $f:X \to M$:写像
$(M,f)$は普遍的であるとは以下の性質を満たすことである.
- 任意の$R$加群$N$と写像$g:X \to N$に対して,$g =\phi \circ f$とする$\phi \in \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$がただ一つ存在する.

情報として,$M$が自由加群であることや$X$が任意の集合になっています.
当然自由加群は普遍的で,MOD1-10-6の証明を次のように置き換えます.
$X$を集合,直和$R^{(X)}$を取る.
$e_{x}=(\delta_{xy})_{x,y \in X}$及び包含写像$i:\{e_{x}\}_{x \in X} \to M$を取る.
このとき,$(R^{(X)},i)$は普遍的である.
特に以下の図式が可換となり,$X \cong \{e_{x}\}$と$i$の合成写像$i’$について(R^{(X)},i’)も普遍的となる.

$R^{(X)}$であれば,表示の一意性を成分ごとの独立で説明します.
他は写像の一意性のみなので,自由加群の文脈なしで証明できます.
集合$X,\{e_{x}\}$は同型なので,図式全体で可換性も成り立ちます.
そして,普遍的な加群は結果的に自由加群となります.
$X$を集合,$(M,f)$を普遍的な$R$加群とする.
このとき,$R$加群として$M \cong R^{(X)}$である.
MOD1-10′-2から,$X \cong \{e_{x}\}$と包含写像$\{e_{x}\} \to R^{(X)}$の合成写像$i$について$(R^{(X)},i)$も普遍的となる.
従って,以下2つの図式が可換となる.

従って,$\psi \phi f=\psi i=f, \phi \psi i =\phi f =i$となる.
また以下図式も可換となる.

この図式は$a=\mathrm{id}_{M},b=\mathrm{id}_{R^{(X)}}$で成り立つ.
$a,b$の唯一性から,$\psi \phi=\mathrm{id}_{M},\phi \psi =\mathrm{id}_{R^{(X)}}$となる.
以上から,$\phi$は同型写像であり$M \cong R^{(X)}$となる.
$\square$
あとは線形独立性と基底の定義を与えれば,「自由加群$=$基底を持つ加群」と証明できます.
(例えばMOD1-10-7の(1)$\Rightarrow$(3)が使える,この自由加群は基底ベースの定義)
このため,「普遍性を満たす加群」を自由加群と定義しても議論として問題は起こりません.
そして,MOD1-10′-2,3は任意の集合$X$で基底とする自由加群を必ずとれることを意味します.
利用例
さて,この方式のメリットや利用例を挙げていきます.
自由加群の一般議論の簡略化
最初はMOD1-10-8です.
任意の$R$加群$M$はある自由$R$加群$F$に対し,
全射$R$線形写像$\phi:F \to M$を持つ.
特に,$M$が有限生成であればある有限生成自由加群$F$の全射線形写像の像となる.
このうち一般の加群の証明はとても簡略化できます.
$X=M$を基底とする自由加群$F$が存在し,普遍的な組として$(F,i)$を取る.
普遍性から$\mathrm{id}_{M}$に対して,$\mathrm{id}_{M}=\phi i$を満たす$\phi \in \mathrm{Hom}_{R}(F,M)$がただ一つ存在する.
ここで$\mathrm{id}_{M}$は全単射のため,$\phi$は全射となる.
$\square$
この証明では,集合・写像のみで元レベルの議論を一切していません.
特に,普遍的な加群を自由加群として定義している場合,MOD1-10′-2の証明すら不要となります.
一転して,有限生成のケースは自由加群側を有限生成にする必要があるので,
$X$を生成系として取り構成できる$\phi$が全射であることを示す必要があります.
構成した加群が自由であることの証明
今回の記事が書かれる原因となった理由がこちらです.
$R^{(X)}$以外の自由加群意図的に構成したい場合は,チェックに普遍的であることが便利です.
例えば次の例です.
$X$を集合とし,$F(X)=\{f:X \to R||\{x \in X|f(x)\neq 0\}|<\infty\}$とおく.
$\rm(1)$以下の演算で$F(X)$は$R$加群となる.
- $f,g \in F(S),x \in X$に対し,$(f+g)(x)=f(x)+g(x)$.
- $f \in F(S),x \in X,r \in R$に対し,$(rf)(x)=r(f(x))$.
$\rm(2)$ $\rho:X \to F(S)(x \mapsto \delta_{x})$により$(F(S),\rho)$は普遍的である.
$\rm(1)$ 任意の$f,g \in F(S),x,y \in X,r \in R$を取る.
$x=y$のとき,以下の通りで加法及び作用が$\rm{well}$-$\rm{defined}$となる.
$(f+g)(x)=f(x)+g(x)=f(y)+g(y)=(f+g)(y)$.
$(rf)(x)=r(f(x))=r(f(y))=(rf)(y)$.
$\rm(2)$ 任意の$R$加群$N$と写像$g:X \to N$を取る.
任意の$f \in F(X)$に対して,$P_{f}=\{x \in X|f(x)\neq 0\}$は有限集合より,
$\sum_{x \in P_{f}}f(x))g(x)$は有限和となる.
$\phi:F(X)\to N(f \mapsto \sum_{x \in P_{f}}f(x))g(x))$と定義する.
$\phi$の$\rm{well}$-$\rm{defined}$性は,$F(X)$が$R$加群であることから従う.
従って,$\phi \in \mathrm{Hom}_{R}(F(X),N)$である.
任意の$x \in X$に対し,$(\phi \rho)(x)=\phi(\delta_{x})=\delta_{x}(x)g(x)=g(x)$より$\phi \rho =g$である.
$\psi \rho =g$となる$\psi \in \mathrm{Hom}_{R}(F(X),N)$を取る.
任意の$x \in X$に対し,以下のように$\phi=\psi$となる.
$\psi(\delta_{x})=(\psi \rho)(x)=g(x)(\psi \rho)(x)=\psi(\delta_{x})$.
以上から,$(F(X),\rho)$は普遍的である.
$\square$
このように,基底ではなく加群と線形写像を構成するのみで自由加群であることを説明できます.
おわりに
環論側の話を進める際に,今回の普遍性が必要にだったため加群の記事として整理しました.
無制限の加群や基底ではない集合から自由加群を構成する方法として,
元レベルでの証明が減るため議論がきれいになる点がアプローチとしてよいと考えます.
(実際に「写像を作って~」は途中から通用しなくなる…)
以上,ケンけんでした.
