こんにちは!ケンけんです.
前回は集合の元に対する線形独立性を定義しました.
今回は生成系を持つ加群において,
生成系が線形独立である場合の加群「自由加群」を取り扱います.
この記事では、環$R$を単位的可換環として$R$加群を取ります。
$R$:環 $M$:$R$加群 $S \subset M$ $I$:集合
以下の写像をクロネッカーのデルタ$\delta_{ij}:I \to R$と呼ぶ.

導入と定義 自由加群
線形独立な部分集合の定義は,有限個の元が線形独立であることでした.
これが加群の生成系に一致した場合,
これを特別に基底と呼び加群は自由加群と呼びます.
$F=(S)$
$S$は$F$の基底($\rm{basis}$)$\overset{def}{\iff} S$は線形独立な集合
また,$F$を自由加群($\rm{free \; module}$)と呼ぶ.
加群が自由と呼ぶ理由は,線形独立性とかかわりがあります.
基底の元を有限個とる場合,
線形独立性から生成元間で関係式を持たない性質を持ちます.
そのため基底の元は他基底の元に依存しない文字通り「自由」な状態といえます.
(圏論では自由対象として再定義されます.)
例
少し単純な例を挙げてみます.
- $M=R^{n}=\bigoplus_{i=1}^{n}R$に対して,$e_{i}=(\delta_{ij})_{j}$とおく.
- このとき$\{e_{1},\ldots, e_{n}\}$は$M$の基底となる.
- $e_{i}$は$M$の標準基底と呼ぶ.
- $N=R^{(\Lambda)}=\bigoplus_{\lambda \in \Lambda}R$に対して,$e_{\lambda}=(\delta_{\lambda \mu})_{\mu}$とおく.
- このとき$\{e_{\lambda}|\lambda \in \Lambda\}$は$N$の基底となる.
- $e_{i}$は$N$の標準基底と呼ぶ.
線形代数を知っている前提ならば,$M$のタイプは見慣れた基底になります.
他には環の例として挙がったガウス整数環も自由加群です.
$i=\sqrt{-1}$とする.
$\mathbb{Z}[i]$は$\mathbb{Z}$加群として,
$\{1,i\}$を基底とする自由加群である.
特に$\mathbb{Z}$加群として,$\mathbb{Z}[i] \cong \mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}$である.
- 対応:$a+bi \mapsto (a,b)$
線形空間は体上の加群ですが,
有限次元の場合は「基底の数$=$次元」とあるように必ず基底を持ちます.
線形代数では生成元の組から基底を構成できるため,
体上の有限生成加群は必ず自由加群になります.
しかし環上の加群では,そうではない例が多く存在します.
$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$は環として$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$と同型である.(参考)
- この環同型の対応:「$\phi:x +6\mathbb{Z} \mapsto (x+2\mathbb{Z},x +3\mathbb{Z})$」
- $\phi$は$\mathbb{Z}$加群としても同型写像.(確認は作用のみ)
- 従って$\mathbb{Z}$加群として$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z} \cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/3\mathbb{Z}=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$.
- $(1+2\mathbb{Z},0+3\mathbb{Z}),(0+2\mathbb{Z},1+3\mathbb{Z})$により生成(有限生成)
- $\mathrm{Ann}_{\mathbb{Z}}(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}/3\mathbb{Z})=6\mathbb{Z}$.
- 任意の元$a \in \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$に対し,$6a=0$である.
- 任意の生成元の組に対し,$6$を作用させて非自明な線形関係を作れる
- 以上から線形独立な組が存在しない.
- よって基底も存在せず$\mathbb{Z}$加群として自由加群ではない.
このように,$\mathbb{Z}$が自分自身で自由加群であっても,
剰余を取るだけで自由加群ではなくなります.
線形代数の商空間ではこのようなことは起こりません.
このため,線形代数は環上の加群論として狭い範囲を扱っていたことになります.
任意の加群は自由加群の剰余加群
実は任意の加群は,自由加群と関係を持っています.
それが次の主張です.
任意の$R$加群$M$はある自由$R$加群$F$に対し,
全射$R$線形写像$\phi:F \to M$を持つ.
この主張の強さは,$M$の有限生成性に依存しないということです.
適当な$R$加群$M$を取ることで$F$の存在が保証され,
準同型定理から$M \cong F/K(K=\mathrm{Ker}(F \to M))$と表示できます.
ここにも,自由加群の剰余が自由とは限らないことが現れています.
その途中過程で,次の事実が現れます.
- 自由$R$加群は$R$の直和で表示される
- 自由$R$加群は同型を除いて一意的である
つまり,自由加群と言えば作用させる環の直和としてよいことになります.
一つずつ見ていきましょう.
準備1 写像の拡張と普遍性
第一の補題は,基底から加群への写像を拡張することです.
$F$を基底が$X$とする自由$R$加群とし,写像$f:X \to M$の存在を仮定する.
このとき,以下を満たす$R$線形写像$g:F \to M$が一意的に存在する.
- 包含写像$i:X \to F$に対し,$f=g \circ i$が成り立つ.
つまり,以下が可換図式になる.

任意の$\sum_{i=1}^{n}r_{i}x_{i} \in F(r_{i} \in R, x_{i} \in X)$を取る.
今$g(\sum_{i=1}^{n}r_{i}x_{i})=\sum_{i=1}^{n}r_{i}f(x_{i})$と定義する.
自由加群の元は基底により一意的に表示されるため,
$g$は写像として$\rm{well}$-$\rm{defined}$となる.
また加法及び作用が成り立つため$g$は$R$線形写像である.(加法が冗長になるため省略)
任意の$x \in X$に対して,$(g \circ i)(x)=g(x)=f(x)$のため$f=g \circ i$となる.
$R$線形写像$h:F \to M$で$f=h \circ i$を仮定する.
任意の$X=\sum_{i=1}^{n}r_{i}x_{i} \in F(r_{i} \in R)$に対し,
$$h(X)=\sum_{i=1}^{n}r_{i}h(x_{i})=\sum_{i=1}^{n}r_{i}f(x_{i})=g(X).$$
以上から$h=g$となる.
$\square$
この補題は,自由加群の普遍性と呼ばれます.
準備2 自由加群の表示
次に自由加群は事実上作用させる環の直和を考えれば十分であることを示します.
以下互いに同値である.
(1)$F$は自由加群である.
(2)ある$S=\{s_{i} |i \in I\} \subset F$が存在し,以下を満たす.
- $F=(S)=\bigoplus_{i \in I}Rs_{i}$,
- $f_{i}:R \to Rs_{i}(r \mapsto rs_{i})$は同型写像.
(3)ある添え字集合$I$に対し,$F \cong R^{(I)}$である.
(1)$\Rightarrow$(2)
$S$を$F$の基底とすることで,$F$は$\{Rs_{i}\}$の内部直和である.
従って,$F=(S)=\bigoplus_{i \in I}Rs_{i}$である.
任意の$i$に対し$f_{i}$の線形性及び全射性は明らかである.
任意の$r \in \mathrm{Ker}f_{i}$を取る.
このとき,$f_{i}(r)=rs_{i}=0$と$s_{i}$の線形独立性から$r=0$となる.
以上から,$\mathrm{Ker}f_{i}=0$となり$f_{i}$は単射である.
条件(2)を満たす$S=\{s_{i}|i \in I\}$を取り,
内部直和$M=(S)=\bigoplus_{i}Rs_{i}$とする.
今$f=\oplus_{i}f_{i}:R^{(I)} \to M((r_{i}) \mapsto \sum_{i}f_{i}(r_{i}))$と定義する.
$R^{(I)}$は直和のため,有限個の$i$を除き$r_{i}=0$であり,
$\sum_{i}f_{i}(r_{i})$は有限和となる.
構成から$f$の$\rm{well}$-$\rm{defined}$と線形性は明らかである.
任意の$\sum_{i}r_{i}s_{i} \in M$に対し,
有限個の$i$を除き$r_{i}s_{i}=0$のため次のように表現できる.
$$\sum_{i}r_{i}s_{i}=\sum_{i}f_{i}(r_{i})=f((r_{i})).$$
従って$f$は全射である.
任意の$(r_{i}) \in \mathrm{Ker}f$に対し,$f((r_{i}))=\sum_{i}r_{i}s_{i}=0$となる.
$M$は$\{Rs_{i}\}$の内部直和のため,命題 MOD1-9′-4から
任意の$i$に対し$f_{i}(r_{i})=r_{i}s_{i}=0$である.
ここで$f_{i}$は同型写像のため$r_{i}=0$となる.
従って$(r_{i})=(0)$であり$\mathrm{Ker}f=0$から$f$は単射である.
以上から$f$は同型写像である.
$e_{i}=(\delta_{ij})_{j}$と置き,$V=\{e_{i}| i \in I\}$を取る.
このとき,$V$は$R^{(I)}$の基底となる.
仮定より同型写像$f:R^{(I)} \to F$が存在する.
今$S=f(V)=\{v_{i} \in F| v_{i}=f(e_{i})\}$と置く.
$f$の全射性から,$F$は$S$で生成される.
任意の$i_{1},\ldots, i_{n} \in I$を取り,$\sum_{j=1}^{n}r_{j}v_{i_{j}}=0(r_{j} \in R)$を仮定する.
$\sum_{j=1}^{n}r_{j}v_{i_{j}}=\sum_{j=1}^{n}r_{j}f(e_{i_{j}})=f(\sum_{j=1}^{n}r_{j}e_{i_{j}})=0$と変形できる.
$f$が同型のため,$\sum_{j=1}^{n}r_{j}e_{i_{j}}=0$である.
$e_{i_{1}},\ldots, e_{i_{n}}$は$R$上線形独立のため,$r_{1}=\cdots = r_{n}=0$となる.
従って,$S$は$R$上線形独立である.
以上より,$F=(S)$は自由加群である.
$\square$
この主張により,次の2つがわかります.
- 自由加群の基底は標準基底の逆像として取得して良い
- 自由加群は作用させる環の直和を考えるだけで十分
MOD1-10-7の同値性から書籍によって線形独立性を使わず,
環の直和で自由加群を定義したりします.
本題 任意の加群と自由加群
それでは本題を証明していきます.
任意の$R$加群$M$はある自由$R$加群$F$に対し,
全射$R$線形写像$\phi:F \to M$を持つ.
$T=M$として,$F \cong R^{(T)}$とする自由加群を取る.
このとき同型写像$f:R^{(T)} \to F$により,$F$の基底を以下の様に取れる.
$$S=\{v_{m}|f(e_{m})=v_{m},e_{m}:\rm{標準基底}\}.$$
写像$g:S \to M(v_{m} \mapsto m)$を取る.
このとき補題 MOD1-10-6から,$\phi \circ i=g$を満たす$R$線形写像$\phi:F \to M$が存在する.
任意の$m \in M$に対し,$m=g(v_{m})\phi(v_{m})$より$\phi$は全射である.
$\square$
以上から任意の環上の加群は,自由加群の剰余加群だと言えます.
おわりに
実は本題の主張を示すだけならば,補題たちは不要です.
が,今後の証明とそもそもの自由加群の構造を知る上では,
取り上げた2つの補題は重要となります.
今後の何度か利用されると思います.
以上,ケンけんでした.
