RING-L-5:環のイデアル商を加群に拡張 加群のイデアル商

こんにちは!ケンけんです。

今回は、加群のイデアル商について見ていきます。

キーワード:加群のイデアル商

必要知識:環上の加群

加群のイデアル商

まずは、イデアル商を加群の場合に一般化します。

問題

$R$:単位的可換環 $M$:$R$-加群 

$N,P \subset M$:部分加群 $S \subset R$

$(N:_{R}P)=\{r \in R| rP \subset N\}$

$(N:_{M} S)=\{x \in M|Sx \subset N\}$

  1. $(N:_{R}P)$は$R$のイデアル
  2. $S$は乗法で可換半群$\Rightarrow (N:_{M} S)$は$M$の部分加群

$(N:_{M} S)$は「$\rm{colon \; submodule}$」と呼ばれる。

「乗法で可換半群」は、乗法で「結合律」と「可換」であることが条件です。

(亜群でもいいかも)

どちらも乗法について環が可換であることからすぐに示せます。

$(N:_{R}P)$の方が、環の場合に似せたイデアル商らしき集合となっています。こちらは大抵の加群論や可換代数の本に記述されています。

そして、今回調べる動機になったのは$(N:_{M} S)$の存在です。こちらは、記述された文献があまりなかったです。そして、とある対象について学ぼうとするといきなり登場します。

数少ない文献ではイデアルを仮定していましたが、必要なのは乗法と可換性だけだったので最大限拡張すると上のようになりました。

この2つは、イデアル商での性質と似た性質を持ちます。

命題

$R$:単位的可換環 $M$:$R$-加群 

$N,N_{i}, P,P_{i} \subset M$:部分加群 $I,J \subset R$:イデアル

  1. $(N:_{R}P)P \subset N$
  2. $(\cap_{i} N:_{R} P) = \cap_{i}(N_{i} :_{R}P)$
  3. $(N:_{R}\sum_{i} P_{i})=\cap_{i}(N:_{R}P_{i})$
  4. $(N:_{R}P)=(N:_{R}N+P)$
  5. $(\cap_{i}N_{i}:_{M}I)=\cap_{i}(N_{i}:_{M}I)$
  6. $(N:_{M}\sum_{i}I_{i})=\cap_{i}(N:_{M}I_{i})$
  7. $(N:_{M}IJ)=((N:_{M}I):_{M}J)$

環のイデアル商の場合は、イデアルに積を考えられましたが加群の場合は考えられないので、積についての等号が存在しません。イデアル$I \subset R$は、環$R$上の加群とみなせます。加群としての性質(加法について)のみ使って示される等号は加群でも全く同様に証明することができます。

証明するとわかるのですが、5.と6.もイデアルではなく乗法で可換半群で十分です。

なので加法については、一般化しても成り立っているわけです。

7.だけは、イデアルの積なのでイデアル商と同じ等号が成立します。

零化イデアル

さて、イデアル商では零化イデアルを考えましたが、加群についても同様のことが考えられます。

定義

$R$:単位的可換環 $M$:$R$-加群 $N \subset M$:部分加群 

$(0:_{R}N)=\{r \in R| rN \subset 0\}$:$N$の零化イデアル($Annihilator$)

$\mathrm{Ann}_{R}N=(0:_{R}N)$

イデアルは環上の加群より、この零化イデアルでも同様の性質が成り立ちます。

これを、部分加群となる$(N:_{M}S)$についても考えられます。

記号定義はされていませんが、零化イデアルに倣って$\mathrm{Ann}$を使って書きます。

定義(仮)

$R$:単位的可換環 $M$:$R$-加群 

$N \subset M$:部分加群 $S\subset R$:乗法で半群

$(0:_{M}S)=\mathrm{Ann}_{M}S$

これは、加群のねじれ元の集合だと言えます。

定義

$R$:単位的可換環 $M$:$R$加群 $x \in M$

$x$はねじれ元 $\overset{def}{\iff} \exists r \in R(rx=0_{M})$

$t(M)=\{x \in M|x:ねじれ元\}$は$M$の部分加群

なので、$\mathrm{Ann}_{M}S$は$S$の元すべてで零化されるねじれ元の集合全体ということになります。

また、$\mathrm{Ann}_{M}S \subset t(M)$もすぐにわかります。

すべての$S$の元で零化される元はそうそう存在しないので頻繁に零加群になりそうです。

課題

ねじれ元関係の話が出ると次のことが気になります。

問題

$R$:単位的可換環 $M$:$R$加群 $S \subset R$:乗法で可換半群

$\mathrm{Ann}_{M}S = t(M)$のとき、$M$はどんな特徴を持つか。

例えば、剰余加群$M/t(M)$を考えるとすべての$R$の元で零化されない加群になります。なので、上の状況だと$M/\mathrm{Ann}_{M}S$で同じことが言えます。

しかし、$\mathrm{Ann}_{M}S$はただのねじれ元ではなく$S$の元すべてで零化されるので、ただ存在すればいいねじれ元の定義に比べかなり強いです。そうすると何か構造が見えるのはと思ったわけです。

逆に、次のことも考えられます。

問題2

$R$:単位的可換環 $M$:$R$加群

あるイデアル$I \subset R$で$\mathrm{Ann}_{M}I=t(M)$ならば、このイデアルはどんな特徴を持つか。

加群についての操作で特徴的なイデアルは大体名前がついています。(台・associated primeなど)なので、こんなイデアルで素イデアルなら何か性質が見えるのではないかと思うのです。

局所化した場合に$\mathrm{Ann}_{S^{-1}M}(S^{-1}I)$が元の$\mathrm{Ann}_{M}I$にどれだけ依存するかはすぐにわかりそう。

おわりに

本当は、$(N:_{M}S)$について色々調べていたはずが新しく疑問が生まれたので記事にしました。

正直ねじれ元の制限が厳しいので、あまり考える価値がない気がするのですが$(N:_{M}S)$を使った議論が実際にあるので少しは価値があると思いたいです。

以上、ケンけんでした。

参考文献

・数少ない$(N:_{M}S)$の文献

D.W.SHARPE & P.VAMOS, 1972, Injective modules, CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS

加群のイデアル商が必要になった原因

M.P.BRODMANN & R.Y.SHARP, 1998, Local Cohomology, CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS

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