FIELD-L-2:添加された体 Q(√d)(その2)

こんにちは!ケンけんです。今回は、前回示した$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$についての表記を別の視点から考えてみようと思います。

前回の記事からの続きになっています。

キーワード:$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$の表示

必要知識:体の定義・体の拡大・添加された体

今回の目標

まず、考えたい命題を明らかにします。

命題

$L/K$:体の拡大 $\alpha \in L$

$K(\alpha)=\{\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)}|f(X),g(X) \in K[X],g(\alpha) \neq 0\}=K’$

以前、$\mathbb{Q}(\sqrt{d})=\{a+b \sqrt{d}|a,b,\in \mathbb{Q}\}$であることを示しましたが、上の命題を示せば直接元を取り示すことができます。

準備

まず、右辺の分数多項式もどきが体であることを確かめる必要があります。

補題

$K’= \{\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)}|f(X),g(X) \in K[X],g(\alpha) \neq 0\}$は体である。

補題 証明

$\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)},\frac{f'(\alpha)}{g'(\alpha)} \in K’$を取ると、

  • $\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)}+\frac{f'(\alpha)}{g'(\alpha)}=\frac{g'(\alpha)f(\alpha)+g(\alpha)f'(\alpha))}{g(\alpha)g'(\alpha)}$
  • $(\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)})(\frac{f'(\alpha)}{g'(\alpha)})=\frac{f(\alpha)f'(\alpha)}{g(\alpha)g'(\alpha)}$

$F(X)=g'(X)f(X)+g(X)f'(X),G(X)=g(X)g'(X),H(X)=f(X)f'(X)$

$F(X),G(X),H(X) \in K[X]$であり、$G(\alpha) \neq 0$。

よって、$\frac{F(\alpha)}{G(\alpha)},\frac{H(\alpha)}{G(\alpha)} \in K’$

乗法と加法が閉じているため、$K’$は単位的可換環であることは$K[X]$が環より明らかである。

$K’$が体であることは、非零元が単元であることを示せば十分。

$\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)} \in K’ \backslash \{0\}$を取ると、$\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)} \neq 0$が成り立つ。

従って、$f(\alpha) \times 1-g(\alpha) \times 0 \neq 0$となり$f(\alpha) \neq 0$。

これより、逆元$(\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)})^{-1}=\frac{g(\alpha)}{f(\alpha)}$が存在し単元である。

$\square$

証明の中で、分数の加法・乗法と同様の操作を行っていますが、これは一般の体でも可能です。

主題の証明

命題 証明

「$K’ \subset K(\alpha)$」について

$\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)} \in K’$を取ると、$f(\alpha),g(\alpha)$は$K$の元と$\alpha$で書けるため$f(\alpha),g(\alpha) \in K(\alpha)$。

よって、$\frac{1}{g(\alpha)} \in K(\alpha)$であり、$\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)}= (\frac{f(\alpha)}{1})(\frac{1}{g(\alpha)}) \in K(\alpha)$。

「$K(\alpha) \subset K’$」について

$f(X)=X,g(X)=1 \in K[X]$を取ると、$g(\alpha)=1 \neq 0$である。

従って、$\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)}=\alpha \in K’$

同様に、$f(X)=k \in K,g(X)=1$として、$\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)}=k \in K’$

従って、$K’ \in \{K’;体|(K \subset K’) \wedge (\alpha \in K’)\}$である。

$K(\alpha)$の最小性から$K(\alpha) \subset K’$。

以上から、$K(\alpha)=K’$である。

$\square$

このようにして、一つの元を添加した体は、別の表記を持つことがわかりました。本来は、有限個の元を添加した場合($K$に$L$の有限部分集合$S$を添加した体$K(S)$)に拡張できますが、今は一つの元だけで十分なのでこのようになりました。(一般は、添加する元の数に関する帰納法)

前回の問題の別証明

分数多項式のような表記を利用すると、以前の命題で別の証明が与えられます。

問題 再掲

$\mathbb{R}/\mathbb{Q}$;体の拡大 $d \in \mathbb{Z}$;非平方数

$\mathbb{Q}(\sqrt{d})=\{a+b \sqrt{d}|a , b \in \mathbb{Q}\} =\mathbb{Q}[\sqrt{d}]$

問題 証明

$f(X) \in \mathbb{Q}[X]$について$f(\sqrt{d})=a+b \sqrt{d}$($a,b \in \mathbb{Q}$)と省略できる。

従って、$\mathbb{Q}(\sqrt{d})=\{\frac{a+b \sqrt{d}}{c+e \sqrt{d}}|a,b,c,e \in \mathbb{Q},c+e \sqrt{d} \neq 0\}$が成り立つ。

「$\mathbb{Q}(\sqrt{d}) \subset \mathbb{Q}[\sqrt{d}]$」について

$\frac{a+b \sqrt{d}}{c+e \sqrt{d}} \in \mathbb{Q}(\sqrt{d})$について「$(c \neq 0) \vee (e \neq 0)$」である。

よって、$c^2-e^2d \neq 0$であり、$\frac{(ac-bed)+(bc-ae)\sqrt{d}}{c^2-e^2d}$が取れる。

このとき、$$\frac{ac-bed}{c^2-e^2d}+\frac{bc-ae}{c^2-e^2d} \sqrt{d} \in \mathbb{Q}[\sqrt{d}]$$である。

従って、$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$の元は$a + b \sqrt{d} \in \mathbb{Q}[\sqrt{d}]$の形で書けて、

$\mathbb{Q}(\sqrt{d})=\{\frac{f(\sqrt{d})}{g(\sqrt{d})}|f(X),g(X) \in \mathbb{Q}[X],g(\sqrt{d}) \neq 0\} \subset \{a+b \sqrt{d}|a , b \in \mathbb{Q}\}$

「$\mathbb{Q}[\sqrt{d}] \subset \mathbb{Q}(\sqrt{d})$」について

$a+ \sqrt{d} \in \mathbb{Q}[\sqrt{d}]$を取る。

$F(X)=a+bX,G(X)=1 \in \mathbb{Q}[X]$について$\frac{F(\sqrt{d})}{G(\sqrt{d})}=a+b \sqrt{d} \in \mathbb{Q}(\sqrt{d})$

従って、$\mathbb{Q}[\sqrt{d}] \subset \mathbb{Q}(\sqrt{d})$である。

以上から、$\mathbb{Q}[\sqrt{d}] = \mathbb{Q}(\sqrt{d})$である。

$\square$

前回は、添加された体の最小性を利用して示していました。

今回の証明では、元の書き方から直接確かめられる点で優れていると言えます。

おわりに

$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$が$1$と$\sqrt{d}$で生成されるように書けることは、拡張していくときの拡大次数を調べるために必要なことです。また添加する元が、$\sqrt{\alpha}+\sqrt{\beta}$のような変わった形を取っている場合は、今回の分数多項式を用いた方法が有用です。

以上、ケンけんでした。

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