こんにちは!ケンけんです.
以前生成された部分加群を取り扱いました.
この元の表示を,生成元の表示が決まるかを与える性質が線形独立です.
キーワード:線形独立 基底 自由加群
この記事では、環$R$を単位的可換環として$R$加群を取ります。
$R$:環 $M$:$R$加群 $S \subset M$
$m_{1},m_{2},m_{3} \in M$
導入
代入操作により文字が数に変わることはありますが,
基本的には文字($x,y$など)と数($1,12$など)は区別して扱ってきました.
中学数学での文字の扱い
まずは,中学数学の文字式に立ち返ってみましょう.
初歩的な操作として式の整理があります.
文字$x,y,z$に対して,式は以下のように整理できます.
- $2x+3y+7x$は$x,y$で整理され,$9x+3y$となる,
- $x+2y+6z$と関係式$z=x-y$が与えられている,
- $x,y$に関して整理すると,$7x-4y$となる.
どの文字で整理するかはあまり明記されないですが,
大抵は文字ごとに別の情報をもつことを前提にされています.
文章題では分かりやすく,特定の情報を文字に置いていましたね.
- $1$個$x$円のりんごを$3$個
- $1$個$y$円のみかんの個数$4$個
- 購入費は$(3x+4y)$円
- りんごとみかんは情報として別なので$x,y$を整理できない
仮に$x,y$をそれぞれりんご・みかんの個数にしても,
「何」の個数かで情報が違うため文字を整理できないことがわかります.
高校数学での文字の扱い
では情報を持たない文字を頻繁に扱う高校数学ではどうでしょう.
例えば次のような$(1+x)^{3}$の二項展開式を考えてみます.
$$(x+y)^{3}=x^{3}+ {}_{3}C_{1}x^{2}y+ {}_{3}C_{2}xy^{2}+ {}_{3}C_{3}y^{3}=x^{3}+3x^{2}y+3xy^{2}+y^{3}.$$
さてこの展開式は,本当に整理できていますか.
式の展開の問題で,$x$と$y$が関係式を持たないと記載されていたでしょうか.
高校数学では言及なしの場合は,文字間に関係式がないことを前提に進めています.
整数環の文字として
ここまで数式としての文字を扱っていました.
今度は環の元としての文字を考えてみます.
環の拡大$\mathbb{Z} \subset \mathbb{R}$を考える.
$\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4} \in \mathbb{R}$を取る.
今,環の拡大として次が考えられる.
- $\mathbb{Z}[\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4}]=\{a+b\sqrt[3]{2}+c\sqrt[3]{4}|a,b,c \in \mathbb{Z}\}$(環にはなります),
- $\mathbb{Z} \subset \mathbb{Z}[\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4}] \subset \mathbb{R}$.
文字式での文字では,数(係数など)で説明できないモノでした.
例である$\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4}$もまた,$\mathbb{Z}$では説明できない元です.
$X=\sqrt[3]{2},Y=\sqrt[3]{4}$と置くことで,より$\mathbb{Z}$から見て別の元に見えます.
しかし,$\mathbb{Z}[\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4}]$の乗法として$X^{2}=Y$が成り立ちます.
これは文字式における「関係式が存在すること」です.
このように拡大環を構成する文字で,関係式が成立する可能性があります.
また$\mathbb{Z}[\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4}]$は,$\mathbb{Z}$加群として扱うこともできます.
この場合は,作用で$X^{2}$を取れないため$X,Y$は別の文字として使用できます.
特に$1,\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4}$が生成元となります.
しかし$\mathbb{Z}[\sqrt[3]{2},\sqrt[3]{4}]$加群として扱う場合は,
環と同様に$X^{2}$が取れるため関係式による整理ができます.
以上から,作用させる環により関係式が発生する可能性があります.
一般の環と加群
数である整数環ではイメージがしやすいですが,一般の環ではどうでしょう.
先ほどの例を全て一般の環に置換してみます.
環の拡大$R \subset T$を考える.
$A,B \in T \backslash R$を取り,次の環の拡大として次が考えられる.
- $R[A,B]=\{\sum_{i,j}r_{ij}A^{i}B^{j}|r_{ij} \in R,\rm{有限和}\}$($A,B$で生成された環),
- $R \subset R[A,B] \subset T$.
ここで,「$A,B$の間に関係式はあるか」問題が出てきます.
数の場合は計算で解決できますが,「任意の元」を使用する抽象数学では,
$T$の元として関係式を調査することも困難です.
また関係式$X^{2}+aX+b=0,Y^{2}+cY+d=0(a,b,c,d \in R)$が存在すれば,
任意の元は$R係数の$1,X,Y,XY$の和だけで書けてしまいます.(文字式の整理と同じ)
これは$R$加群として有限生成だといえます.
しかしここに至っても$X,Y$の間は関係式なしと言い切れません.
それではここまでの文字の扱いを考慮して,加群の生成元を考えてみましょう.
有限生成$R$加群$M=\sum_{i=1}^{3}Rm_{i}$に対して,
$m_{1},m_{2},m_{3}$が$R$加群として関係式を持たないといえるか?
元が互いに依存しない条件
いきなり生成元間の関係式を考えるのは無謀です.
そのため,逆に関係式を持てない条件を考えます.
生成元1個の場合
実は環上の加群では,生成元が一つの場合でも関係式を持つことがあります.
それが加群の元に対する零化イデアルの存在です.
$M=Rm_{1}$を仮定する.
$\mathrm{Ann}_{R}M\neq 0$のとき,
非零な$r \in \mathrm{Ann}_{R}M$が存在し$rM=0$が成り立つ.
- 関係式$rm_{1}=0_{M}$が存在する.
- 任意の異なる元$m,n \in M$に対して,$rm=rn=0$となる
- 異なる元の間に関係式が存在する
- 任意の異なる元$m,n \in M$に対して,$rm=rn=0$となる
生成元が一つのため,$M$のすべての元が$0_{M}$と関係式を持つことになります.
普通の数ではありえませんが,簡単な例は剰余環を取るだけで作成できます.
例えば$\overline{2},\overline{3} \in M=\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$に対して,以下のように多数の関係式が存在します.
$$3 \cdot \overline{2}= 6 \cdot \overline{2}=6 \cdot \overline{3}=\overline{0}$$
なぜ零元との関係式を考えるかは,暗に生成系には零元が含まれるためです.
生成系$S \subset M$に対して,$(S)=(\{0_{M}\}\cup S)$は成り立ちます.
以上から生成元と零元と関係式を持たないことが,
生成元の間に関係式が存在しない条件の第一歩です.
$\mathrm{Ann}_{R}M=0$を仮定することで,$r\neq 0$の場合$rm_{1} \neq 0_{M}$となります.
このように$r=0$の場合のみ$rm_{1}=0$となる関係式は,
「自ずと明らかになる」関係式として「自明な関係式」と呼びます.
逆に$r\neq 0$のときに$rm_{1}=0$の場合は,「非自明な関係式」と呼びます.
定義用語に踏み込む場合は,「自明な線形関係式」,「非自明な線形関係式」となります.
これで生成系$\{m_{1}\}$の中で関係式を持たない条件が決まりました.
生成元2個の場合
次に$M=\sum_{i=1}^{2}Rm_{i}$の場合を考えましょう.
まず$m_{1},m_{2}$が零元と関係式を持ってはいけないため,
$\mathrm{Ann}_{R}(m_{1})=\mathrm{Ann}_{R}(m_{2})=0$となります.
次に$m_{1},m_{2}$の間に関係式の存在です.
まず関係式の最も一般的な形は次の表示です.
$$r_{1}m_{1}+r_{2}m_{2}=0(r_{1},r_{2} \in R) \cdots \rm{(A)}$$
関係式のケースとして,次の3通りがありえます.
- ある$r_{1} \in R$に対して$m_{2}=r_{1}m_{1}$,またはある$r_{2} \in R$に対して$m_{1}=r_{2}m_{2}$,
- ある$m \in M$に対し,$m_{1}=m_{2}+m$($m_{2}=m_{1}+m$と同義),
- ある$r_{1},r_{2} \in R$に対し$r_{1}m_{1}=r_{2}m_{2}$.
いずれも係数部分が異なりますが,$\rm{(A)}$の表示に従っています.
文字式での「定数項」は$M$の元のため$m_{1},m_{2}$の和で書けるため,
最終的にはこの表示が可能となります.
1.は$m_{2}=r_{1}m_{1}=m_{1}+(r_{1}-1)m_{1}$から2.の条件を満たすこと,
また3.は$r_{2}=1_{R}$とすることで成立します.
次に2.は$m \in M$より$m=s_{1}m_{1}+s_{2}m_{2}(s_{1},s_{2} \in R)$と表示できるため,
$m_{1}=m_{2}+m \Rightarrow (1_{R}-s_{1})m_{1}=(1_{R}+s_{2})m_{2}$と表示できます.
以上から,条件としては「1.$\Rightarrow$2.$\Rightarrow $3.」と言えます.
この推移が関係式が存在する条件の強弱ならば,
対偶を取ることで関係式が存在しない最も広い条件がわかります.
3.の否定としては,「任意の$r_{1},r_{2} \in R$に対し$r_{1}m_{1} \neq r_{2}m_{2}$」です.
$\neq$があると気持ち悪いので,次のように言い換えましょう.
$$r_{1}m_{1}+r_{2}m_{2}=0_{M} \Rightarrow r_{1}=0,r_{2}=0.$$
これが$m_{1},m_{2}$が関係式を持たない条件となります.
生成元が3個以上の場合
3個以上の場合,2個の場合を拡張させて考えてみます.
まず$m_{1},m_{2},m_{3},\ldots, m_{n} \in M$の間の関係式は次の表示になります.
$$\sum_{i=1}^{n}r_{i}m_{i}=0$$
これは2個の場合同様,定数項の部分は$m_{1},\ldots, m_{n}$の有限和で書けるため,
最終的にはこの表示まで整理できるためです.
では2個の場合の関係式が存在しない条件を当てはめると次のようになります.
$$\sum_{i=1}^{n}r_{i}m_{i}=0 \Rightarrow r_{1}=\cdots =r_{n}=0 \cdots \rm{(B)}$$
実際にこれの否定を取る場合はある$i$で$r_{i}\neq 0$かつ次の等式が成り立ちます.
$$r_{i}m_{i}=-\sum_{j\neq i}r_{j}m_{j}.$$
よって,$m_{i}$が$m_{j}(j\neq i)$との間に非自明な関係式を持つことになります.
従って,元$m_{1}+r_{i}m_{i} \in M$に対して,
$(1_{R}-r_{i})-\sum_{j \notin \{1,i\}}r_{j}m_{j}$と整理できる余地が発生します.
以上から,$\rm{(B)}$は$m_{1},\ldots, m_{n}$の間に関係式が存在しない条件とわかりました.
これが,「線形独立性」です.
生成系が無限集合の場合?
あともう1パターン残っており,生成系が有限集合ではない場合です.
ですが,生成される加群の元は有限個の生成系の元しか使用しません.
例えば$S \subset M$で生成される部分加群$N=(S)$の元$n$は,
$n=\sum_{i=1}^{n}r_{i}s_{i}(r_{i} \in R, s_{i} \in S)$と有限和で表示できます.
そのため任意の有限個の生成元間で関係式が存在しない条件がそのまま適用できます.
定義 線形独立性
それでは定義です.
$S \subset M$ $N=(S)$ $r_{1},\ldots ,r_{n} \in R$
次の条件を満たすとき$s_{1},\ldots, s_{n} \in S$は$R$上線形独立($\rm{linearly \; independent}$)と呼ぶ.
- $\sum_{i=1}^{n}r_{i}s_{i}=0 \Rightarrow r_{1} =\cdots =r_{n}.$
またこの生成系$S$を「線形独立な部分集合」と呼ぶことがある.
考察のため例をいくつか使用しましたが,改めて整理します.
- 環$R$に対して$1_{R}$は$R$上線形独立
- ガウス整数環$\mathbb{Z}[i]$に対して$1,i$は$\mathbb{Z}$上線形独立
- 多項式環$R[X]$の生成系$\{1,X,X^{2},\ldots\}$は線形独立な部分集合
- これは多項式環の構造と不定元$X$の説明に直結する
おわりに
難産でした(白目)
基本的に線形独立性はそこにあるものとして扱うタイプの定義なので,
納得できる動機づけを編み出すまで苦労しました.
ですが線形独立で何が「独立」なのかをしっかり説明できたと思います.
(ただし冗長すぎる部分は修正するかも)
以上,ケンけんでした.
