こんにちは!ケンけんです.
今回は整数の公約数から定義される用語「互いに素」のイデアル版を取り扱います.
キーワード:互いに素
この記事では,環はすべて単位的可換環とします.
導入と定義 互いに素なイデアル
整数は一意的な素因数分解を持つため,$2$の整数に関して公倍数・公約数が取れます.
このうち最大公約数が$1$となる$2$つの整数を「互いに素」と呼んでいました.
高校数学で整数を学んだ方なら,一次不定方程式の解答に散々書いたのではないでしょうか.
せっかくなので一次不定方程式を一つやってみましょう.
一次不定方程式$12x+55=1$を解け.
ユークリッドの互除法から,$x=23,y=-5$が解の一つである.
従って,$12(x-23)+55(y+5)=0$が得られる.
$12,55$の最大公約数が$1$より互いに素である.
従って$x-23$は$55$の倍数であり$x=55k+23(k$は整数$)$と表せる.
元の式に戻すことで,$y=-12k-5$となる.
以上から$x=55k+23,y=-12k-5$が一般解である.
$\square$
一次式$12(x-23)$は$55$の倍数である必要がありますが,$12,55$の最大公約数が$1$です.
なので約数を考えると$x-23$が$55$を約数にもつ($55$の倍数)必要があります.
方程式をイデアルで表現すると,$(12)+(55)=\mathbb{Z}$になります.
この用語を一般のイデアルに拡張するとすれば,イデアルの和が環と一致することでしょう.
$R$:環 $I,J \subset R$:イデアル
$I$と$J$は互いに素$(\rm{coprime})$$\overset{def}{\iff} I+J=R.$
初等整数論を深めていると,整数$a,b$に対して次が互いに同値になります.
- 不定方程式「$ax+by=1$」が整数解を持つ.
- $a,b$は互いに素である.
(証明は整数論でまた…)
この事実から簡単に不定方程式の問題を作ることができるわけです.
そして,$1.$の条件からイデアルの互いに素は整数の場合のから拡張できているといえます.
イデアルの積と共通部分
互いに素で重要な部分は有限個のイデアルの積と共通部分が一致する点です.
$R$を環とし,$I,J,I_{i},J_{j}(i=1,\ldots, n,j=1,\ldots,m)$をイデアルとする.
(1)$I_{1}\cdots I_{n} \subset \bigcap_{i=1}^{n}I_{i}.$
(2)各$i,j$に対し$I_{i},J_{j}$が互いに素$\Rightarrow I_{1}\cdots I_{n}, J_{1},\cdots J_{m}$は互いに素.
(3)各$i,j=1,\ldots, n$に対し$I_{i},I_{j}$が互いに素$\Rightarrow I_{1}\cdots I_{n}=\bigcap_{i=1}^{n}I_{i}.$
(1)は元の比較から明らかである.
(2)
$I_{1}$と$J_{1},J_{2}$が互いに素を仮定する.
このとき,$I_{1}+J_{1}=I_{1}+J_{2}=R$である.
よってある$x,x’ \in I_{1},y \in J_{1},z \in J_{2}$により,
$x+y=x’+z=1_{R}$である.
従って$1_{R}=(x+y)(x’+z)=(xx’+xz+x’y)+yz \in I_{1}+J_{1}J_{2}$である.
以上から,$I_{1}+J_{1}J_{2}=R$から互いに素である.
よって任意の$i=1,\ldots, n$に対し,
$I_{i}$と$J_{1}J_{2},J_{j}(j=3,\ldots, m)$は互いに素である.
これを繰り返すことで,$I_{i}$と$J=J_{1}\cdots J_{m}$は互いに素である.
同様に,$J$と$I_{i}(i=1,\ldots, n)$が互いに素のため,
$J$と$I_{1}\cdots I_{n}$も互いに素となる.
(3)
(2)から,$I_{1}I_{2}=I_{1}\cap I_{2}$を確認すれば十分である.
$I_{1}+I_{2}=R$から,
ある$x \in I_{1},y \in I_{2}$で$x+y=1_{R}$と表せる.
従って任意の$a \in I_{1}\cap I_{2}$に対し,
$a=ax+ay \in I_{1}I_{2}$となり$I_{1}\cap I_{2} \subset I_{1}I_{2}$となる.
$\square$
$2$つの異なる極大イデアルでは,BR1-5-4から常に互いに素になります.
なので,有限個の極大イデアルの積と共通部分は常に一致します.(結構重要)
中国剰余定理
互いに素の議論が挙がった際に出る主張として,中国剰余定理があります.
整数版なら,数研出版の教科書や青・赤チャートのコラムにあった気がします.(古の記憶)
環$R$の互いに素なイデアル$I_{i}(i=1,\ldots, n)$を取る.
$I=\bigcap_{i=1}^{n}I_{i}$に対し,次の$\phi$は同型である.

直接証明と誘導写像としての同型で,$2$つ方針がありますが今回は誘導写像を利用します.
$f:R\to \prod_{i=1}^{n}R/I_{i}(x \mapsto (x+I_{i}))$を定義する.
これは環準同型として$\rm{well}\text{-}\rm{defined}$である.
$\phi$は$f$に関する準同型定理による同型写像と一致するため,
$I=\mathrm{Ker}f$及び$f$の全射性を示せば十分である.
$I=\mathrm{Ker}$に関して
$I \subset \mathrm{Ker}f$は明らかなので逆を示す.
$x \in \mathrm{Ker}f$に対し,各$i$で$x+I_{i}=0+0_{i}$のため$x \in I_{i}$である.
従って$x \in \bigcap_{i=1}^{n}I_{i}=I$となる.
$f$の全射性について
任意の$(x_{i}+I_{i}) \in \prod_{i=1}^{n}R/I_{i}$を取る.
ここで各$i$に対し$I_{i}$と$I_{j}(j\neq i)$は互いに素より,
BR1-11-3から$I_{i}$と$\prod_{j\neq i}I_{j}=\bigcap_{j\neq i}I_{j}$は互いに素である.
よって$y_{i}+z_{i}=1_{R}$とする$y_{i} \in I_{i},z_{i} \in \bigcap_{j\neq i}I_{j}$が存在する.
$x_{i}=x_{i}y_{i}+x_{i}z_{i}$から,$x_{i}+I_{i}=x_{i}z_{i}+I_{i}$となる.
また$j\neq i$に対し$x_{i}z_{i} \in I_{j}$のため,$i=1$のときは
$f(x_{1}z_{1})=(x_{1}+I_{1},0,\cdots ,0)$となる.
各$i=2,\ldots,n$で$x_{i}z_{i}$は$R/I_{i}$の項を$x_{i}+I_{i}$,それ以外を$0$とする.
以上から,$f(\sum_{i=1}^{n}x_{i}z_{i})=(x_{i}+I_{i})$となり$f$は全射となる.
$\square$
証明から互いに素は元の写像の全射に必要でした.
整数版だと次のような連立合同方程式の形になります.
整数$m,n$が互いに素とする.
このとき,任意の整数$x,y$に対して次の等号を満たす整数$a$が法$mn$において一意的存在する.
$$\begin{align*}a &\equiv x(\rm{mod}\; m)\\ a &\equiv y(\rm{mod}\; n)\end{align*}$$
より一般には,互いに素な整数を有限個に拡張できます.
剰余環の記事でも取り上げましたが,合同式は剰余環の元を表示しているだけです.
なので,この主張は$\mathbb{Z}/mn\mathbb{Z} \cong \mathbb{Z}/m\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$を表しています.
おわりに
この記事を書くにあたって,久しぶりに整数版の中国剰余定理を見ました.
思ったよりそのまま環の場合で,同型の表示がいかにすっきりしているかわかりました.
(整数版は整数の性質をふんだんに使うので別でまた書きます.)
以上,ケンけんでした.