こんにちは!ケンけんです.
今回は環の元すべてが単元でないため発生する零因子を取り挙げます.
また元全体で特定の条件を満たす整域と体も扱います.
キーワード:環の零因子・整域・体
この記事では、環はすべて単位的可換環とします.
導入と定義 零因子・整域・体
加群の場合は,ここで同様の名称を定義しています.
そして環についても,加群の考え方を応用できます.
環$R$の乗法は$R$加群としての作用なので,$R$から$R$への$R$線形写像を考えればよいです.
つまりは,環の零因子は加群の場合そのままです.
なので,例えば次のような例があります.
- 有理整数環$\mathbb{Z}$の剰余環$\mathbb{Z}/36\mathbb{Z}$
- 零因子は$\overline{2},\overline{3}$等
- 特に$\overline{6}$は$2$乗で$0$に
- 非零因子は$\overline{5},\overline{17}$など
それでは用語をいろいろ定義していきます.
$R$:環 $x \in R$
$x \in R$は零因子$(\rm{zero \; divisor})$$\overset{def}{\iff} \exists y \in R \; s.t. \; ry=0.$
(零因子ではない元は非零因子または正則元と呼ぶ.)
$Z(R)$:$R$の零因子全体の集合 $\mathrm{Reg}R=R\backslash Z(R)$
$R$は整域$(\rm{integral \; domain})$$\overset{def}{\iff} Z(R)=\{0\}.$
$R$は体$(\rm{field})$$\overset{def}{\iff} R^{\times}=R\backslash\{0\}.$
加群と同様に,零因子であることは次のような言いかえができます.
環$R$の元$r$に対し,以下が互いに同値である.
(1)$r \in Z(R).$
(2)$\exists x \in R\backslash\{0\} \; s.t. \; rx=0.$
対偶から,
$r \in \mathrm{Reg}R \iff \forall x \in R(rx=0 \Rightarrow x=0).$
また正則元の取り方から,整域の極小素イデアルは$(0)$となります.($\mathrm{Min}R=\{(0)\}$.)
このため,極小素イデアルが絡む議論では整域をつけておけば面倒な議論がなくなります.
整域や体の例としては次が挙げられます.
- 整域
- 有理整数環$\mathbb{Z}$
- 整数係数の多項式全体がなす環$\mathbb{Z}[X]$
- 実係数の連続関数全体がなす環$C(\mathbb{R})$
- 体
- 有理数体$\mathbb{Q}$,実数体$\mathbb{R}$
- 群$G$の単数群$U(G)$(例えば$p$を素数とする剰余環$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$)
剰余環による素イデアルの特徴づけ
整域と体を取り上げた際にほぼ必ず挙がるのが,剰余環による素イデアルの特徴づけです.
$R$を環とし,イデアル$I \subset R$を取る.
(1)$R/I$は整域$\iff I \in \mathrm{Spec}R.$
(2)$R/I$は体$\iff I \in \mathrm{Max}R.$
従って$\mathrm{Max}R \subset \mathrm{Spec}R$である.
(1)
$R/I$を整域と仮定し,「$xy \in I$かつ$ x \notin I \Rightarrow (y \in I)$」を示す.
$\overline{x}\overline{y}=\overline{xy}=\overline{0}$かつ$\overline{x}\neq \overline{0}$である.
よって$\overline{y}$が$R/I$の零因子だが整域の仮定から,
$\overline{y}=\overline{0}$であり,$y \in I$となる.
逆に,$\overline{r} \in Z(R)$を取る.
このとき,ある非零な$\overline{x}\in R/I$により$\overline{r}\overline{x}=\overline{0}$となる.
$\overline{x}\neq \overline{0}$かつ$I \in \mathrm{Spec}R$から,
$rx \in I$かつ$x \notin I$となる.
従って$r \in I$であり,$\overline{r} =\overline{0}$から$R/I$が整域である.
(2)
$R/I$を体と仮定し,$I \subsetneq J \subset R$とするイデアル$J$を取る.
BR1-9-4(イデアルの対応原理)から,$R/I$の真のイデアル$J/I$が取れる.
ここで$R/I$の非零な元が単元より,$J/I$も同様に零元と単元からなる.
従って,$\overline{1} \in J/I$のため$J/I=R/I$である.
$R$のイデアルに戻すことで$J=R$となり$I \in \mathrm{Max}R$である.
逆に$I \in \mathrm{Max}R$を仮定する.
非零な$\overline{x} \in R/I$に対し,$x \notin I$となる.
BR1-5-4より$I+(x)=R$のため,ある$r \in R,y \in I$により$rx+y=1$となる.
従って$R/I$上で$\overline{rx}=\overline{1}$のため$\overline{x}$は$R/I$の単元となる.
$\square$
イデアルの対応原理や極大イデアルの特性を利用しました.
特に,極大イデアルの方はBR1-5-5と似た議論をしています.
また,いくつかの整域と体の性質がわかります.
- $R:$体$\Rightarrow R:$整域
- 整域の部分環は整域である.(特に体の部分集合からなる環は整域)
実はもっと強く「整域$\Rightarrow$ある体の部分環」まで言えます.
(新しい道具が必要ですが,過去にここで扱ってました.)
作用に関するイデアル(加群論から)
環の場合は,単元が存在するためより強い条件を得ることができます.
(環準同型写像では~倍写像は乗法を保たないので定義できません.)
単元について~倍写像による特徴づけをしてみましょう.
$r \in R$に対し,$R$線形写像$\widehat{r}:R\to R(x \mapsto rx)$を取る.
以下が互いに同値である.($R^{\times}$は$R$の単元全体の集合です!)
(1)$r \in R^{\times}$.
(2)$\widehat{r}$は全射.
(3)$\widehat{r}$は全単射.
$\widehat{r}$が全射であることは,$R=rR=(r)$と同値である.
従ってBR1-3-1より,
「$r \in R^{\times} \iff R=(r) \iff \widehat{r}$は全射」である.
よって$(1)\iff (2)$であり$(3)\Rightarrow (1)$は単射性によらず成り立つ.
$(1)\Rightarrow (3)$
$r \in R^{\times}$からある$b \in R$により,$rb=1_{R}$となる.
従って$rx=0$となる$x \in R$に対し,
$b(rx)=x=0$のため$\mathrm{Ker}\widehat{r}=\{0\}$である.
以上から,$\widehat{r}$は単射である.
$\square$
環の乗法なので,単元倍がよりきれいになりました.
イデアルに制限した場合は,$(2)\Rightarrow (1)$の部分が成り立たない場合があります.
ですが次のように正則元による主張の得られます.
$R$を環とする.
$r \in \mathrm{Reg}R$ならば,イデアル$I$に対し$R$加群として次が同型である.

写像は$\widehat{r}$で,非零因子と単射性の同値性から得られます.
この記事でも触れたように,正則元倍写像はいくつか特殊な加群をなしています.
単射性は加群と同様に,乗法(作用)を取る元が正則元であることと同値です.
そして先の命題から,~倍写像の全射性が単元倍と同値です.
よって環$R$に対し,「$R$は$\rm{divisible}$$\iff \mathrm{Reg}R=R^{\times}$」が得られます.
$R$が$\rm{divisible}$な例は有理数体$\mathbb{Q}$などです.
おわりに
体は単独で一つの分野であったり,整域は仮定すると非常に議論がしやすいので難しい一般論を考える際はとりあえず仮定しておくと理解の助けになります.
今後の例示でも積極的に使っていきます.
以上,ケンけんでした.