こんにちは!ケンけんです。
ベクトル空間では、非零な元がすべて単元(逆元を持つ)ため作用をあまり気にしません。
しかし環上の加群ではその限りではなく、零元になる場合があり得ます。
今回は、そんな加群の零因子と正則元(非零因子)について取り扱います。
キーワード:加群の零因子と正則元
導入
実は作用で$0$になる例はここまでの基礎知識で構成できます。
剰余を取る操作は基本的に作用で$0$になる元ができてしまいます。
上の例では、$\overline{2}$が$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$の「零因子」であるといいます。
この作用で$0$になるというのは、元レベルの説明です。
しかし、いちいち「元を取って~」は大変なので別の説明方法が欲しいです。
そこで目を付けるのが、線形写像です。
上の例よろしく、零因子は次の条件が欲しいです。($M$を$R$加群とします)
- 環の元として非零であり($0 \in R$だと任意の$m \in M$で$0m=0_{M}$で意味がないため)
- 非零な$M$の元を作用で$0_{M}$にするか
これ、$r \in R$の元倍を写像と見ることで線形写像で説明できそうです。
まず、1.と2.を満たす「零因子」と2.を満たさない「非零因子」と名前を仮置きしましょう。
すると次のように特徴づけられます。
- $r=$零因子:$\widehat{r}:M \to M(m \mapsto rm)$は単射ではない,
- $rm=0_{M}$とする$0_{M} \neq m \in M$が存在,
- $m \in \mathrm{Ker}\widehat{r} \neq \{0_{M}\}$で単射ではない.
- $r=$非零因子:$\widehat{r}:M \to M(m \mapsto rm)$は単射.
- $m \in \mathrm{Ker}\widehat{r}$について$rm=0_{M}$,
- $r$が非零因子より$m=0_{M}$のみである,
- $\mathrm{Ker}\widehat{r}=\{0_{M}\}$より単射.
線形写像で説明すると、$\mathrm{Ker}$の話と言い換えられます。
特に「$r$倍写像が単射か否か」で定義する方が、すっきりします。
定義 零因子と正則元
それでは定義していきます。
導入で見たように、単射性は作用で零化できるかと言い換えができます。
導入で確認しているので簡単に示します。
$\begin{align*} r \in D_{R}(M) &\iff \widehat{r}\text{:単射ではない},\\ &\iff \exists m \in \mathrm{Ker}\widehat{r} \backslash \{0_{M}\} \; s.t. \; rm=0_{M}, \\ &\iff \exists m \in M\backslash \{0_{M}\} \; s.t. \; rm=0_{M}, \end{align*}$
$\square$
零因子を単射による説明にすることで、演算で閉じることの確認が集合論になります。
$m \in M$に対し, $1_{R}m=m$より$1_{R} \in \mathrm{Reg}_{R}M$である.
任意の$x,y \in \mathrm{Reg}_{R}M$について$\widehat{x},\widehat{y}:M \to M$は単射である.
合成写像は$\widehat{x}\widehat{y}=\widehat{xy}$より単射である.
よって$xy \in \mathrm{Reg}_{R}M$である.
$\square$
元レベルの説明だと、「$xym=0_{M}\Rightarrow ym=0_{M} \Rightarrow m=_{0}$」と確認が必要ですが、単射の合成を利用するとそこの説明が一行でできます。
これに限らず、写像で説明できる元の性質は基本的に写像側の説明を使うと楽になります。
寄り道 全射の場合は?
ここからは余談ですが、零因子が単射で特徴づけられるなら全射は何を意味するのでしょう。
環$R$だけに絞った場合、ただただ環の単元になります。
$(1)\Rightarrow (2)$について
任意の$x \in R$に対し, $x=r(r^{-1}x) \in rR$より$\widehat{r}$は全射である.
$(2)\Rightarrow (1)$について
$\widehat{r}$が全射より任意の$x \in R$に対し, ある$y \in R$で$ry=x$.
よって$x \in R^{\times}$とすると, $1_{R}=ryx^{-1}$より$r^{-1}=yx^{-1}$である.
従って$r \in R^{\times}$である.
$(3)\iff (1)$は$rR=R$から従う.
$\square$
しかし、環から加群$M$に置き換えると同じ事は言えません。
($r$倍写像が全射から自然に単射までは言えないため)
体は非零な元がすべて単元なので、各成分ごとに単元倍表示できてしまいます。
そうすると、線形代数の商空間でも$r$倍写像が全単射になることがわかります。
ちなみに作用を加群に注目していますが、環の零因子・正則元に注目するケースもあります。
つまり環$R$の$r \in D_{R}(R)$や$r \in \mathrm{Reg}_{R}R$で加群の$r$倍写像の単射・全射です。
これらは加群に注目するより縛りが多いですが次の特殊な加群をなします。
- $M$:$\rm{torsion \; free} \overset{def}{\iff}$任意の$r \in \mathrm{Reg}_{R}R$で$\widehat{r}:M\to M$が単射.(参考)
- $M$:$\rm{divisible} \overset{def}{\iff}$任意の$r \in \mathrm{Reg}_{R}R$で$\widehat{r}:M\to M$が全射.(参考)
- $M$:$\rm{torsion} \overset{def}{\iff}$任意の$r \in \mathrm{Reg}_{R}R$で$\widehat{r}:M\to M$は単射ではない.
ただし、気を付けないといけないのは$D_{R}(R)$と$D_{R}(M)$は意外と関係性がありません。
これを直接調べることはあまりに非現実的なので、別の手段が後々出てきます。
おわりに
今回は、以前学習帳で挙げた内容を含めて、一般記事用に再構成と導入を追加した形でした。
(実は過去の学習帳の記事一本消しました…)
細かい性質等は、省略したので道具がそろったらまとめようと思います。
以上、ケンけんでした。