BR1-8:環どうしの演算比較 環準同型写像とその像と核

こんにちは!ケンけんです。

今回は環の構造比較に用いられる環準同型写像を取り扱います。

キーワード:環準同型写像

この記事では、環はすべて単位的可換環とします。

導入

構造を保つ写像を群・環・体・加群それぞれで準同型写像と呼びます。

その導入は次の点で分けて考えると見通しがいいです。

  1. 定義域の環構造(加法・乗法)で像集合を環にできる.
  2. 像集合が値域の部分環になる.

まず演算で必要なことを挙げてみます。

設定として$f:R→T$を環どうしの写像とします。

1.(像集合の環構造は定義域の構造に従う)

  • $x,y \in R \Rightarrow f(x)+f(y)=f(x+y)$.
    • 左辺(“$f(R)$”の加法)を右辺(“$R$”の加法)で定義する.
  • $x,y \in R \Rightarrow f(x)f(y)=f(xy)$.
    • 左辺(“$f(R)$”の乗法)を右辺(“$R$”の乗法)で定義する.

任意の$f(R)$の元は$f(x),f(y)(x,y \in R)$の形で環構造が定義できています。

2.(像集合が値域の部分環)

  • $f(x),f(y) \in f(R) \Rightarrow f(x)+f(y) \in f(R)$.
    • ある$z \in R$で$f(x)+f(y)=f(z)$とできる.
  • $f(x),f(y) \in f(R) \Rightarrow f(x)f(y) \in f(R)$.
    • ある$w \in R$で$f(x)f(y)=f(w)$とできる.

こちらは$T$の演算と像集合の定義から必要な条件となります。

注意:1.と2.の環構造は次のように定義は違います。

  1. $f(R)$に$R$の演算で演算を定義している.
  2. $T$の演算で$f(R)$の条件を説明している.

しかし、1.は2.の条件も満たすため1.と2.を合わせた次の条件を採用します。

  • $f(x),f(y) \in f(R) \Rightarrow f(x)+f(y) =f(x+y)$,
  • $f(x),f(y) \in f(R) \Rightarrow f(x)f(y) =f(xy)$.

それぞれ左辺($T$の演算)を右辺($R$の演算)で説明できています。

そして部分環の条件には単位元を含むことも必要です。

$1_{T}=f(x)$として適当な$x \in R$は同じ単位元$1_{R}$でしょう。

以上の条件から、「像集合を定義域と同じ構造の部分環にする写像」ができました。

定義

それでは定義していきます。

定義 MOD1-3-1

$R,T$:環 $f:R \to T$:写像

$(1) x,y \in R \Rightarrow f(x)+f(y) =f(x+y), f(x)f(y) =f(xy)$

$(2)f(1_{R})=1_{T}$

$f$:環準同型写像($\rm{ring \; homomrophism}$)$\overset{def}{\iff} f$は$(1),(2)$を満たす.

単射のときはモノ($\rm{monomorphism}$),

全射のときはエピ($\rm{epimorphism}$)と呼ぶことがある.

導入で挙げたように、像集合は値域の部分環になります。

命題 MOD1-3-2

$R,T$を$R$加群, $f:R \to T$を環準同型写像とする.

このとき, $f(R)$は$T$の部分環である.

$1_{T} \in f(R)$より空集合ではない.

$y,y’ \in f(R)$に対し, $y-y’,yy’ \in f(R)$を確認する.

ある$x,x’ \in R$により$f(x)=y,f(x’)=y’$と書けるため,

$y+y’=f(x+x’) \in f(R), yy’=f(xx’) \in f(R)$となる.

$\square$

この定義により零元の対応などが決まります。

命題 MOD1-3-3

$R,T$を環, $f:R \to T$を環準同型写像とする.

(1)$f(0_{R})=0_{T}$

(2)$x \in R \Rightarrow f(-x)=-f(x)$,

(3)$x \in R^{\times}$に対し, $f(x^{-1})=f(x)^{-1}$である.

特に, $f(R^{\times}) = f(R)^{\times} \subset T^{\times}$である.

(1) $0_{f(R)}=0_{T}$より$f(R)$の元で零元となることを確認する.

任意の$y=f(x) \in f(R)$に対し,

$f(x)=f(x+0_{R})=f(x)+f(0_{R})=f(0_{R})+f(x)$.

従って$f(0_{R}) =0_{f(R)}$である.

(2)任意の$x \in R$に対し,

$0_{T}=f(0_{R})=f(x-x)=f(x)+f(-x)$,

から$-f(x)=f(-x)$となる.

(3)任意の$x \in R^{\times}$に対し,

$1_{T}=f(1_{R})=f(xx^{-1})=f(x)f(x^{-1})=f(x^{-1})f(x)$.

従って$f(x)^{-1}=f(x^{-1})$である.

$\square$

像と核, 同型

ここからは、環準同型写像を通した加群の比較に触れます。

まず次の主張が成り立ちます。

命題 MOD1-3-4

$R,T$を環, $f:R \to T$を環準同型写像とする.

(1)$\mathrm{Im}f=f(R)$は$T$の部分環である,

(2) $\mathrm{Ker}f=\{x \in R|f(x)=0_{T}\}$は$R$のイデアルである.

$\mathrm{Im}f$を$f$の($\rm{image}$), $\mathrm{Ker}f$を$f$の($\rm{kernel}$)と呼ぶ.

像についてはすでに確認したので、核について示します。

$f(0_{R})=0_{T}$から, $0_{R} \in \mathrm{Ker}f \neq \emptyset$である.

任意の$x,y \in \mathrm{Ker}f, r \in R$を取る.

このとき, $f(x)=f(y)=0_{T}$から

$f(x+y)=f(x)+f(y)=0_{T}, f(rx)=f(r)f(x)=0_{T}$.

$x+y,rx \in \mathrm{Ker}f$となる.

以上から, $\mathrm{Ker}f$は$M$のイデアルである.

$\square$

これらは、単射・全射を特徴づけるツールになります。

命題 MOD1-3-5

$R,T$を環, $f:R \to T$を環準同型写像とする.

(1)$f$は単射$ \iff \mathrm{Ker}f=\{0_{R}\}$,

(2)$f$は全射$ \iff \mathrm{Im}f=T$.

全射は定義そのままなので単射だけ確認します。

(1) $\Rightarrow$について,

$\mathrm{Ker}f \subset \{0_{R}\}$を示せば十分である.

任意の$x \in \mathrm{Ker}f$に対し$f(x)=0_{T}=f(0_{R})$である.

$f$の単射性から$x=0_{R}$より$\mathrm{Ker}f \subset \{0_{R}\}$である.

$\Leftarrow$について,

$x,y \in M$に対し$f(x)=f(y)$を仮定すると$f(x-y)=0_{T}$である.

従って, $x-y \in \mathrm{Ker}f$から$x=y$で$f$は単射である.

$\square$

さて像と核で別の部分構造が出てきます。

命題から「核はイデアル」なので、仮に部分環になるとどうなるのでしょう。

定義から$1_{R} \in \mathrm{Ker}f$必要ですが、これは$\mathrm{Ker}f=R$を意味します。

よって$f$がすべて$0_{T}$に移す零写像となります。

そして像は部分環より単位元を持ちますが、$\mathrm{Im}f=\{0_{T}\}$から$0_{T}=1_{T}$になります。

この状況は、値域が零環(単位元と零元が一致する環)の場合しかありえません。

任意の環同士で比較する場合は、部分環になりえません。

ここから、環の比較においてイデアル・部分環ともに考える必要性が感じられます。

最後に全単射な環準同型写像の特徴付けを取り上げます。

命題 MOD1-3-6

$R,T$を環, $f:R \to T$を環準同型写像とする.

このとき, 以下は互いに同値である.

(1)$f$は全単射である,

(2)$f$は環準同型写像となる逆写像を持つ.

全単射な環準同型写像を同型写像($\rm{isomorphism}$)と呼ぶ.

どちらもほぼ同じですが、書籍によっては(2)で記述しています。

この命題は全単射の確認で十分だということを主張しています。

$(1) \Rightarrow (2)$の$g=f^{-1}$が環準同型写像となることを示す.

任意の$y,y’ \in T$に対し,

$f$の全射性から$y=f(x),y’=f(x’)(x,x’ \in R)$と表せる.

従って, $g$の加法は次のように定義される.

$\begin{align*}g(x+x’) &= g(f(x)+f(x’))\\ &=g(f(x+x’))=x+x’\\ &=gf(x)+gf(x’)\\ & =g(y)+g(y’). \end{align*}$

また乗法も次のように定義される.

$\begin{align*}g(yy’) &= g(f(xx’))\\ &= xx’=(gf(x))(gf(x’))\\ &= g(y)g(y’). \end{align*}$

以上から, $g$は環準同型写像である.

$(2) \Rightarrow (1)$については、逆写像が存在するため明らかである.

$\square$

(2)が定義になる理由は加群版で考察しています。(参考

おわりに

核がイデアルになる説明として、同値関係が作れることがあります。

剰余環・環準同型定理を扱うときに改めて話題に挙げます。

以上、ケンけんでした。

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