こんにちは!ケンけんです。
今回は、部分環と拡大環について取り扱います。
キーワード:部分環・拡大環
この記事では、環はすべて単位的可換環とします。
導入
環は特別な部分集合として、イデアルを持っていました。
しかし環自身以外のイデアルは、「単位的」環ではありません。
この記事から、イデアルについて「単位元を含む」と「環自身」が同値でした。
つまり環の構造(加法・乗法)を保った部分集合ではありません。
また部分構造に目が行きがちですが、逆に大きくなる(拡大)方では環であってほしいです。
部分集合の方は、環の演算で説明できれば十分ですが広げる方だとその範囲外ですから…
構造としての願望以外に環の性質でいくつか価値があります。
- 素イデアルなどの対応・比較
- 環の不変量(次元など)の対応が一般の環同士以上に整理されやすい
- 環を特別な環で考えたいので、条件を満たすまで小さく(部分的に)取りたい
- 逆に性質を保つギリギリまで拡大したい
環構造を保つ包含関係を説明できた方が楽そうです。
「単位的環」として保ってほしい情報は次の2つです。
- 演算構造(加法と乗法)
- 単位元
つまり、$R$を環として部分集合$\emptyset \neq T \subset R$について次が成り立ってほしいです。
- $x,y \in T$が$R$の加法・乗法で$x+y,xy \in T$,
- 上の乗法で単位元$1_{S}$が存在し, $1_{S}=1_{R}$.
定義では、これらを課せばよさそうです。
定義 部分環と拡大環
それでは定義します。
条件には零元(加法単位元)は含まれていませんが自然に拡大環と一致します。
任意の$x \in R$に対し, $x+(-x)=0_{R}$が成り立つ.
よって, $0_{T}$の定義から次のように$0_{R}=0_{T}$が得られる.
$\begin{align*}0_{R} &= 0_{R}+0_{T}=0_{R}+x+(-x)= x+(-x) \\ &= 0_{T} .\end{align*}$
$\square$
(この事実、加法群として群の単位元の性質から明らかと言ってもいいです 小声)
部分環の確認は、演算の条件である1.を次のようにみることができます。
単位元は定義からすぐわかるため, 演算部分を考えれば十分である.
$(1) \Rightarrow (2)$について
$x,y \in R$に対し, 加法と乗法が閉じるため$x-y,xy \in T$である.
$(2) \Rightarrow (1)$について
$x \in R$に対し$x-x =0_{T} \in R$より$0_{T}-x=-x \in R$となる.
従って, 任意の$x,y \in R$に対し$x-(-y)=x+y \in R$より加法で閉じる.
乗法は明らかなので, $R$は$T$の部分環となる.
$\square$
余談ですが、環から「単位的」を外すとイデアルが部分環になります。
この2つは、「乗法・作用の差」と「単位元」が問題でした。
部分環を「加法・乗法で閉じる」だけにすると、作用から乗法で閉じることを意味します。
- 作用「$x \in I, r \in R \Rightarrow rx \in I$」
- 乗法「$x \in I, y \in I \subset R \Rightarrow xy \in I$」
「乗法で閉じる」から「作用が閉じる」は環の元を掛けるため一般には言えません。
部分環より拡大の方が見やすい?
イデアルは「倍数全体の集合」のようにイメージがしやすいです。
しかし部分環は?
単位元を持つことが結構な足かせとなって部分環は作りずらいです。
多項式環の説明はまだしていませんが、高校数学までの多項式の計算と同様に確認できます。
整数環の方は少し確認してみます。
任意の部分環$R \subset \mathbb{Z}$を取る.
まず, 任意の$n\geq 0$で$n \in R$を$n$に関する帰納法で示す.
$0,1 \in R$は定義から得られる.
$x,y \in R$に対し, $x-y \in R$より$1 \in R$に対して$1-(1)=2 \in R$である.
$n-1 \in R$に対し, $(n-1)-(-1)=n \in R$となる.
従って, $n \geq 0$は$n \in R$である.
$n<0$については, $0<-n=m \in R$より$0-m=n \in R$となる.
以上から, $\mathbb{Z} \subset S$から部分環は$\mathbb{Z}$のみである.
$\square$
整数環は、よく見知った有理数全体や複素数全体の集合(環になる)等の部分環になっています。
でもこの例、拡大環からより$\mathbb{Z}$(部分環)側に条件を追加したように見えます。
- $\mathbb{Z} \subset \mathbb{Q}$:分母を追加
- $\mathbb{Q} \subset \mathbb{R}$:無理数を追加(厳密にはコーシー列が収束するように大きく集合を作る)
- $\mathbb{R} \subset \mathbb{C}$:虚数単位$i$の項を追加
- $\mathbb{Z} \subset \mathbb{Z}[i]$も同様.
- $R \subset R[X]$:$R$に$R$係数の$X$のべきを追加
整数の拡大環を例として挙げたためあからさまな形になりますが、与えられた環を「部分環」とする環の拡大を考えることが結構あります。
おわりに
イデアルと部分環は、また剰余環と環準同型写像でも差別化がされます。
また部分環よりも「環の拡大」で「多項式の根」を扱う話題へ広がっていきます。
以上、ケンけんでした。