MOD1-2:イデアルの別視点としての加群論 部分加群

こんにちは!ケンけんです。

今回は、加群の一部を切り出した部分加群を取り扱います。

途中で環上の加群論が環論にどのように関係を持つかも触れます。

キーワード:部分加群

この記事では、$R$加群と書き単位的可換環$R$上の加群とします。

導入

加群導入の記事で「環$R$自身が$R$加群」「そのイデアル$I$は$R$加群」に触れました。

ここから、「環を加群の言葉で説明する」視点で議論を始めましょう。

まず、加群としての環とイデアルを見比べます。

    • 加法:
    • スカラー倍:環の乗法(環の定義から加群の定義も満たす.)
  • イデアル
    • 環の部分集合
    • スカラー倍:環の元倍(環の乗法で定義)

イデアルは環論単体では、特別な集合枠でした。

しかし、加群としてみると、環とそのイデアルは同じ演算を持つことがわかります。

イデアルは環だけでは見えない(または気にしない)加群の構造を保つ部分集合と言えます。

よってイデアルは、環の「部分」加群だといえます。

(「部分~」は基本的に構造を保つ部分集合という意味で使われます。)

さて、導出自体はこれで十分ですがわざわざこんな別視点は必要かが問題になります。

どんな時に必要かと言うと、「環論の性質」が環の言葉で説明が難しいまたはできない場合です。

基礎の部分(数学科の学部$3$年レベルの環・加群の知識)では見えてきませんが、少しでも専門内容に進むとすぐ対応できなくなります。

具体的には、「環の次元」・「Nother局所環の理論」あたりが入門で立ちはだかります。

  • 環の次元:「素イデアルの真の最長の減少列」の長さ
    • 重要な不変量なのに直接求めるのが非常に面倒
    • 途中で加群での不変量を挟むことがある(環だとイメージしずらい量)
  • Nother局所環:「イデアルの真の増大列が途中で止まる」$+$「極大イデアルが一つだけ」
    • 定義は環の言葉でもできるが具体的性質は加群を通さないと分からないものが多い
    • 途中からホモロジー代数(群・加群での道具)がほぼ必須に
    • 現状証明にホモロジー代数が必要な環の有名な性質が存在する(正則局所環)

また、線形代数学における線形部分空間の一般化であるため応用することもできます。

基底を取れる取れないが結構な主要性質で利用されますし…

以上から、部分構造以上にイデアルを部分加群ととらえる視点・線形代数の視点で有用だといえます。

もちろん環に絡めず、加群論単体としての構造解析には役立ちます。

定義 部分加群

それでは定義していきます。

定義 MOD1-2-1

$M$:$R$加群 $\emptyset \neq N \subset M$

$N$は$M$の部分加群($\rm{submodule}$)$\overset{def}{\iff} N$は$M$の作用で$R$加群となる.

もちろん加群の条件すべてを確認する必要はなく次の条件で十分になります。

命題 MOD1-2-2

$M$を$R$加群とし, $\emptyset \neq N \subset M$を取る.

このとき, 以下互いに同値である.

(1)$N$は$M$の部分加群である,

(2)$m,n \in N,r \in R$に対し, $N$の加法とスカラー倍で$m+n, rm \in N$である.

ただの確認なので証明は省略します。

そしてこの(2)はまさしく環の場合のイデアルと同じ条件となります。

元々代数的整数の素イデアルの分解や素因数分解に関する研究で使われた$\mathbb{Z}$加群が始まりなので、定義がイデアルの拡張なのは当然だったりします。

構造を保つ点では、零元が一致することがあげられます。

命題 MOD1-2-3

$M$を$R$加群, $N \subset M$を部分加群とする.

このとき, $0_{N}=0_{M}$である.

各$n \in N$に対して$0n=0_{M} \in N$となる.

従って$0_{N},0_{M}$の性質から,

$0_{N}=0_{N}+0_{M}=0_{M}$である.

$\square$

部分加群を保つ集合演算

イデアル同様にいくつかの演算が存在します。

命題 MOD1-2-4

$M$を$R$加群, $N, P, N_{i} \subset M(i \in I)$を部分加群, $I \subset R$をイデアルとする.

以下すべて$M$の部分加群である.

(1)$N+P=\{n+p|n \in N,p \in P\}$:$N$と$P$の和,

(2)$\bigcap_{i \in I}N_{i}$,

(3)$(N:_{M}I)=\{m \in M|\forall r \in I , \; rm \in N \}$

(4)$IM=\{\sum_{\text{有限和}}r_{i}m_{i}|r_{i} \in I, \; m_{i} \in M\}$

MOD1-2-2(2)を確認すれば十分である.

(1)任意の$X=n+p,Y=n’+p’ \in N+P,r \in R$を取る.

$X+Y=(n+n’)+(p+p’) \in N+P, \; rX=rn+rp \in N+P$である.

(2)任意の$m,n \in \bigcap_{i \in I}N_{i},r \in R$を取る.

各$i \in I$で$m,n \in N_{i}$から$m+n,rm \in N_{i}$より,

$m+n,rm \in \bigcap_{i \in I}N_{i}$となる.

(3)任意の$m,n \in (N:_{M}I), \; r \in R$を取る.

任意の$t \in I$に対し$tm,tn \in N$より,

$tm+tn=t(m+n), \; r(tm)=t(rm) \in N$である.

従って, $m+n,rm \in (N:_{M}I)$である.

(4)任意の$X=\sum_{i=1}^{a}r_{i}m_{i},Y=\sum_{j=1}^{b}t_{j}n_{j} \in IM, r \in R$を取る.

$t_{j}=r_{a+j},n_{j}=m_{a+j}$と置くことで, $X+Y=\sum_{i=1}^{a+b}r_{i}m_{i} \in IM$である.

また, $rX=\sum_{i=1}^{a}(rr_{i})m_{i} \in IM$から$IM$は部分加群である.

$\square$

イデアルは環の部分集合だったため、積$IJ$が考えましたが加群では無理なのでスカラー倍した集合として$IM$が代わりに定義されます。

ちなみに加群をイデアルした場合はそのままイデアルの積に一致します。

つまりイデアルの積よりスカラー倍した加群見た方がより一般の性質がわかります。

またイデアルの包含からすぐわかりますが、次の包含関係が成り立ちます。

  • $I \subset J \Rightarrow IM \subset JM$
  • $\cdots \subset I^{2}M \subset IM \subset M$

(そしてこの形が加群と環で非常に有用な状況が発生します…)

おわりに

部分代数系の説明はどうしても「同じ演算の部分集合」の一言で説明が終わってしまい味気なく感じるため、導入部分に動機付けを得られるよう話題展開してみました。

以上、ケンけんでした。

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