BR1-4:環論の中心的存在 素イデアル

こんにちは!ケンけんです。

今回は、素数の拡張として素イデアルを導入していきます。

キーワード:素イデアル

この記事では、環はすべて単位的可換環とします。

導入

整数での素数は、「$1$と自分自身以外で割り切れない数」でした。

$2$つの整数$x,y$の積が素数$p$倍のとき、$p$は$x,y$のいずれかの素因数です。

(素因数分解の一意性より)

これを集合(単項イデアル)で表すと次のようになります。

$$xy \in (p) \Rightarrow (x \in (p)) \vee (y \in (p)) \cdots (*)$$

素数の情報から、単項イデアルとして素であることの条件が得られました。

これを満たすイデアルを、仮で「素イデアル」と呼びます。

すると、確かに素数と素イデアルは対応することがわかります。

命題BR1-4-1

正の整数$p$に対し, 次が成り立つ.

$p$は素数$\iff$ $P=(p)$は素イデアル.

「$p$は素数$\Rightarrow P=(p)$は素イデアル」は、上の素イデアルの構成から明らか.

「$p$は素数$\Leftarrow P=(p)$は素イデアル」について

正の整数$x,y$で$xy=p$と書けると仮定する.

$x=p,y=1$または$x=1,y=p$となることを示せば十分である.

$xy=p \in (p)$より, $x \in (p)$または$y \in (p)$である.

$x \in (p)$ならば, ある整数$k$で$x=pk$と書ける.

$xy=pky=p$から, $ky=1$となる.

よって, $k=y=1$となり$x=p,y=1$である.

$y \in (p)$についても, 同じ手法で$y=pk(k \in \mathbb{Z})$から$kx=1$となる.

従って, $x=1,y=p$となる.

$\square$

ここから、条件$(*)$は「素」であるイデアルが持つ条件と言えます。

$(*)$の定義が、素数の定義らしいことを後で取り上げます。

定義 素イデアル

それでは条件$(*)$を一般の環で再定義します。

定義BR1-4-2

$R$:環 $P \subsetneq R$:イデアル $x, y \in R$

$xy \in P \Rightarrow (x \in P) \vee (y \in P) \cdots (*)$

$P$は素イデアル($\rm{prime \; ideal}$)$\overset{def}{\iff}$ $P$は$(*)$を満たす.

全体の集合を$\mathrm{Spec}R=\{P \subset R|P:$素イデアル$\}$と書く.

単項イデアルを一般のイデアルに置き換えただけです。

今回は$P$で書きましたが、書籍では大抵$\mathfrak{p}$(ドイツ文字)で書かれています。

$\mathfrak{p}$や$\mathfrak{q}$を書くのは大変なのでよく次の書き方をします。

p,qの書き順

素イデアルとイデアルの積

$n$個の整数$a_{i}(i=1, \ldots, n)$の積が素数$p$倍になるとします。

このとき、素因数分解の議論である$j$で$a_{j}$は$p$を素因数に含みます。

つまり、次が成り立ちます。

$$a_{1} \cdots a_{n} \in (p) \Rightarrow \exists j \in \{1, \ldots, n\} s.t. a_{j} \in (p)$$

これは、一般の素イデアルが持つ性質です。

命題BR1-4-3

$R$を環とし, $P \subsetneq R$をイデアルとする.

$a_{i} \in R$とイデアル$I_{i} \subset R$について次が成り立つ. $(i \in N=\{1, \ldots ,n\})$

(1)$a_{1}a_{2} \cdots a_{n} \in P \Rightarrow \exists i \in N s.t. a_{i} \in P$,

(2)$I_{1}I_{2} \cdots I_{n} \subset P \Rightarrow \exists i \in N s.t. I_{i} \subset P$.

(1)結論の否定命題「$\forall i \in N(a_{i} \notin P)$」を仮定する.

$a_{1}a_{2} \cdots a_{n} \in P$から, $a_{1} \in P$または$a_{2} \cdots a_{n} \in P$である.

$a_{1} \notin P$から$a_{2} \cdots a_{n} \in P$である.

同様に, $a_{2} \notin P$から$a_{3} \cdots a_{n} \in P$が成り立つ.

この議論を$n-1$回繰り返すことで$a_{n} \in P$となり$a_{n} \notin P$に矛盾する.

従って, ある$i$で$a_{i} \in P$である.

(2)(1)同様に「$\forall i \in N(I_{i} \nsubseteq P)$」を仮定する.

このとき, 各$i$で$a_{i} \in I_{i} \cap P^{c}$が存在する.

$a=a_{1} \cdots a_{n} \in I_{1} \cdots I_{n} \subset P$が成り立つ.

ここで,(1)からある$i$で$a_{i} \in P$となり$a_{i} \in I_{i} \cap P^{c}$に矛盾する.

従って, ある$i$で$I_{i} \subset P$である.

$\square$

単項イデアル$P=(p)$が素イデアルとすることで整数と同じ状況にできます。

単項イデアル以外でも、次のことがわかります。

$$素イデアルに含まれる元は素イデアルの元で割り切れる$$

おわりに

同値な言いかえが多く存在する素イデアルですが、今回は素数から動機づけしました。

実際に、素数は「単項イデアルが素イデアル」となる素元へ一般化されます。

道具がそろっていないので、また別の機会に。

以上、ケンけんでした。

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