こんにちは!ケンけんです。
今回は、多項式環を係数環の拡大環であることに次数付き環の側面から考えていきます。
それではいってみよう!
キーワード:多項式環・次数付き環
この記事では、環はすべて単位的可換環とします。
不定元ってなんだ?
多項式環といえば、$f=a_{0}+a_{1}X+ \cdots +a_{n}X^{n}$のような多項式の集まりでした。
このとき、自然に不定元$X$を取りますがこの元はどこからとってきたのでしょう。
係数環$R$と多項式環$R[X]$について、定数項から$R \subset R[X]$だと分かります。

そうなると$R[X]$よりもっと大きい環の元となります。
中学数学から、関数として代入する変数と同じように多項式も使っています。
ですが、多項式は関数ではないので不定元は代入する対象ではありません。
やはり、どこか別の環の元として持ってこないといけません。
つまり、問題なく説明するためには次の点をクリアする必要があります。
- $X$の取り方をはっきりさせる。
- $X$の指数(次数)を定義できるか?
- 元の環$R$を部分環として持てるか?
次数付き環
多項式環の乗法は、各次数の係数同士の積ではなく次数が一致する係数の積の和でした。

この時点で、普通の環の直積の元とは見れません。(同じ成分どうしの乗法)
これを解決するのが次数付き環です。
$G$を可換モノイドとする. (乗法で結合律と可換律を満たし単位元を持つ集合)
$R$を環とし, $\{R_{i}\}_{i \in G}$を$R$の部分加法群の族とする.
(1)$R=\bigoplus_{i \in G}R_{i}$
(2)$i,j \in G \Rightarrow R_{i}R_{j} \subset R_{i+j}$
$R$は($G$型の)次数付き環($\rm{graded \; ring}$)である$\overset{def}{\iff} R$は(1),(2)を満たす.
加法は成分ごとの和であり, 乗法を次のように定義する.
$\times:R \times R \rightarrow R$
$((m_{i}),(n_{j})) \mapsto (\sum_{k=i+j
}m_{i}n_{j})$
(well-definedは$m_{i}n_{j}$についてだけ調べれば十分)
$x \in R$は斉次元$\overset{def}{\iff} \exists i \in G \; s.t. \; x \in R_{i}$.
($i$は$x$の次数と呼ぶ.)
何やら多項式と同じ単語が出ていますが、実際に多項式環は次数付き環として定義できます。
一般論だと添え字は可換モノイドですが、実用上は整数環$\mathbb{Z}$か非負整数全体$\mathbb{N}$になります。
準備が整ったので本題の多項式環を考えます。
多項式環の構成
まずは、多項式環をどのように表現するのかを確かめましょう。
$R$を環とし, $X$を不定元とする.
(1)$T=\bigoplus_{i \in \mathbb{N}}R$は次数付き環である.(各$i \in \mathbb{N}$で$R_{i}=R$, $\mathbb{N}$は非負整数.)
(2)環として$R[X] \cong \bigoplus_{i \in \mathbb{N}}R$である.
(1)直和については明らかである.
各$i,j \in \mathbb{N}$について, $R_{i}R_{j}=RR \subset R=R_{i+j}$である.
従って, 乗法のwell-definedを確かめれば十分である.
$(m_{i})=(m’_{i}),(n_{j})=(n’_{j})$を取る.
各$i,j$で$m_{i}=m’_{i}, n_{j}=n’_{j}$より, $m_{i}n_{j}=m’_{i}n’_{j}$である.
$\sum_{k=i+j}m_{i}n_{j}=\sum_{k=i+j}m’_{i}n’_{j}$より,
$(\sum_{k=i+j}m_{i}n_{j})=(\sum_{k=i+j}m’_{i}n’_{j})$.
以上から, $T$は次数付き環である.
(2)第$i$成分のみ$1$の$T=\bigoplus_{i \in \mathbb{N}}R$の元を$e_{i}$とおく.
$f:R[X] \rightarrow T$を次のように定義する.
$f(\sum_{j=0}^{n}a_{i}X^{i} \mapsto \sum_{j=0}^{n}a_{i}e_{i})$.
$\sum_{j=0}^{n}a_{i}X^{i}=\sum_{j=0}^{n}b_{i}X^{i}$を仮定すると, 各$i$で$a_{i}=b_{i}$である.
従って, $\sum_{j=0}^{n}a_{i}e_{i}=\sum_{j=0}^{n}b_{i}e_{i}$で$f$はwell-definedである.
加法は明らかであり, 乗法も次のように確認できる.
$a=\sum_{j=0}^{n}a_{i}X^{i},b=\sum_{j=0}^{n}b_{i}X^{i}$について,
$f(ab)=f(\sum_{k=0}^{i+j}(\sum_{k=i+j}a_{i}b_{j}X^{i+j}))$
$=\sum_{k=i+j}a_{i}b_{j}e_{i+j}$,
$f(a)f(b)=(a_{i})(b_{j})=\sum_{k=i+j}a_{i}b_{j}$
$=\sum_{k=i+j}a_{i}b_{j}e_{i+j}$.
以上から, $f$は環準同型写像である.
全射性について, $(a_{i}) \in T$を取る.
$a_{i} \neq 0$となる$a_{i}$は有限個より, $a_{N} \neq 0$となる最大数$N$が存在する.
従って, $f(\sum_{i=0}^{N}a_{i}X^{i})=\sum_{i=0}^{N}a_{i}e_{i}=(a_{i})$である.
単射性について, $\sum_{i=0}^{n}a_{i}X^{i} \in \mathrm{Ker}f$を取る.
このとき, $f(\sum_{i=0}^{n}a_{i}X^{i})=\sum_{i=0}^{n}a_{i}e_{i}=(a_{i})=(0)$である.
従って, 各$i$で$a_{i}=0$であるため$\sum_{i=0}^{n}a_{i}X^{i}=0$である.
以上から, $f$は同型写像である.
$\square$
この$T$側の対応からわかるように、不定元$X$は$e_{1}=(0,1,0, \cdots)$で説明されました。
$X^i$は、$T$側の次数$i$の斉次元$e_{i}$に対応することで区別されています。
(ここから、多項式の「次数」は次数付き環での次数として定義できます。)
さて$R$と$R[X]$には包含関係がないので、直接$R$と$R[X]$は比較できません。
しかし、比較も再現したいので何を考えるかというと部分環の同一視ですね。
次の自然な単射により、$R$は$R[X]$の部分環とみなせます。
$$i:R \rightarrow \bigoplus_{i \in \mathbb{N}}R(r \mapsto (r,0, \cdots))$$
定数項に対応させることが、単位元$1_{R}$を次数$0$の$e_{0}$に対応させることで説明できます。
これで、導入で満たしてほしかった3つの点を解決でき晴れて厳密な定義ができました。
おわりに
環論を学んでいると、Rees環という次数付き環を学ぶことがあります。
ここにしれっと多項式環の厳密な表示を理解しているかが効いてきます。
かくいう筆者も、この視点があるだけでRees環のNoether環である証明の意味が変わって見えるほどでした。そちらも、いずれ取り上げたいですね。
以上、ケンけんでした。