MOD-L-13:平坦性と操作の可換性 テンソル積の像と核 

こんにちは!ケンけんです。

最近可換代数の学習で平坦性をやってるんですが、まぁテンソル積を使うわけです。

そして、線形写像$f$の像と核を平然とテンソル積と順序交換しています。

これではダメだということで、どんな時に像や核を取る操作とテンソル積が交換できるのかを言語化目的で記事にします。

それでは行ってみよう!

キーワード:テンソル積

この記事では、環を単位的可換環とします。

テンソル積の像と核

まず、今回の主題を明確にします。

問題

$R$をとし, $M, N, P$を$R$加群, $f \in \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$を取る.

$f_{P}=f \otimes 1:M \otimes_{R}P \rightarrow N \otimes_{R} P(m \otimes p \mapsto f(m) \otimes p)$と定義する.

(1)$\mathrm{Im}f \otimes_{R}P = \mathrm{Im}f_{P}$

(2)$\mathrm{Ker}f \otimes_{R} P = \mathrm{Ker}f_{P}$

(本来は$\cong$で書くべきですが、それぞれ$N\otimes_{R}P,M \otimes_{R}P$上で同一視しています.)

  • これらが成り立つ条件は何か?

一見あたりまえにみえますが、テンソル積の線形性が結構な悪さをします。

(ある意味テンソル積の面倒な点をよく表す部分)

その基準として,divisible moduleによる影響があります。

命題1

$R$を環とし, $M$をdivisible $R$加群とする.

このとき, 各$R$のイデアル$I$について次が成り立つ.

divisible reg

$\mathrm{Reg}R \cap I \neq \emptyset$より, ある正則元$r$で$r \in I$となる.

$M$がdivisibleより, 各$m \in M$について$m=rm’$とする$m’ \in M$が存在する.

したがって, 任意の$m \otimes \overline{a} \in M \otimes_{R}R/I$について

$m \otimes \overline{a}=rm’ \otimes \overline{a}=m’ \otimes r \overline{a}=m’ \otimes 0=0$.

以上から, $M \otimes_{R} R/I=\{0\}$である.

$\square$

単純な反例として次のものがあります。

反例 Im

$\mathrm{Im}f \otimes_{R}P = \mathrm{Im}f_{P}$.

反例)$R,M=\mathbb{Z}, N=\mathbb{Q},P=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$($p$は素数),

$f : M \rightarrow N$(包含写像).

$\mathbb{Q}$はdivisible moduleより, $N \otimes_{R}P=0$.

よって$\mathrm{Im}f_{P}=\{0\}$だが, $\mathrm{Im}f \otimes_{R}P=\mathbb{Z} \otimes_{R}P \cong P \neq \{0\}$.

反例 Ker

$\mathrm{Ker}f \otimes_{R} P = \mathrm{Ker}f_{P}$.

反例)$R=\mathbb{Z}, M=\mathbb{Q}, N=\mathbb{Q}/\mathbb{Z},P=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$($p$は素数),

$f : M \rightarrow N$(自然な準同型).

$\mathbb{Q}$はdivisible moduleより, $M \otimes_{R}P=0$.

よって$\mathrm{Ker}f_{P}=0$だが, $\mathrm{Ker}f \otimes_{R}P=\mathbb{Z} \otimes_{R}P \cong P \neq \{0\}$.

このように、一般の場合は反例ができてしまいます。

でも、書籍ではしれっとこの交換を利用しているケースがある。

それは、大抵は平坦性を利用しています。

平坦性

平坦性は、同値命題についての性質ですが次の形が最もわかりやすいです。

定義

$R$を環とし, 次の列を$R$加群と準同型がなす完全列とする.

短完全列

$P$を$R$加群とする.

$P$は平坦加群$\overset{def}{\iff}$ 次の列は完全列である.

平坦性

($f\otimes 1$が単射になることはテンソル積では自明ではない。)

テンソル積は$\mathrm{Hom}$関手の逆で右完全性を持っています。

そのため、全射は明らかですが単射は平坦性が必要になります。

命題

$R$をとし, $M, N, P$を$R$加群, $f \in \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$を取る.

$f_{P}=f \otimes 1:M \otimes_{R}P \rightarrow N \otimes_{R} P(m \otimes p \mapsto f(m) \otimes p)$と定義する.

(1)$f$は全射 $\Rightarrow $ $f_{P}$は全射である.

特に, $\mathrm{Im}f_{P} \cong N \otimes_{R}P=\mathrm{Im}f \otimes_{R}P$である.

(2)$f$は単射 かつ $P$は平坦加群 $\Rightarrow $ $f_{P}$は単射.

特に, $\mathrm{Ker}f_{P} = \{0\} =\mathrm{Ker}f \otimes_{R}P$である.

この場合は単純に、像や核が加群で表現できるので$\otimes_{R}$と$\mathrm{Im},\mathrm{Ker}$を取る操作が可換になっています。

この場合は極端すぎるので、もっと広げられないかと考えました。

課題

$f$に単射や全射を課さずに$\otimes_{R}$と$\mathrm{Im},\mathrm{Ker}$を取る操作が可換になる例はあるか?

得られた例

それでは、考えた例を書いていきます。

問題となる点は次のことです。

  • 部分加群(像や核)のテンソル積は、元のテンソル積に単射を伸ばせるか?

これは、平坦性によって解決できるのでした。これをうまく使います。

環$R$と積閉集合$S$について$R_{S}$は平坦$R$加群になります。

(参考:局所化の完全性と同型$M\otimes_{R}R_{S} \cong M_{S}$から)

命題

$R$をとし, $M, N$を$R$加群, $f \in \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$とする.

$f_{R_{S}}=f \otimes 1:M \otimes_{R}R_{S} \rightarrow N \otimes_{R} R_{S}(m \otimes a/s \mapsto f(m) \otimes a/s)$と定義する.

(1)$\mathrm{Im}f \otimes R_{S} \cong \mathrm{Im}f_{R_{S}} $

(2)$\mathrm{Ker}f \otimes_{R} R_{S} = \mathrm{Ker}f_{R_{S}}$

$f_{S}:M_{S}\rightarrow N_{S}(m/s \mapsto f(m)/s)$とする.

示し方は同じのため、(1)のみ示します。

$\mathrm{Im}f \otimes_{R} R_{S} \cong (\mathrm{Im}f)_{S}$である.

ここで, $g:(\mathrm{Im}f)_{S} \rightarrow \mathrm{Im}f_{S}(n/s \mapsto n/s)$を定義する.

$n=f(m)(m \in M)$より, $n/s=f_{S}(m/s) \in \mathrm{Im}f_{S}$よりwell-definedとなる.

$g$は, 加群準同型であり逆写像も同様に$g^{-1}(n/s)=n/s$で得られる.

したがって, $(\mathrm{Im}f)_{S} \cong \mathrm{Im}f_{S}$である.

また, 次の可換図式から$\mathrm{Im}f_{S} \cong \mathrm{Im}f_{R_{S}}$である.

以上から, $\mathrm{Im}f \otimes_{R} R_{S} \cong \mathrm{Im}f_{R_{S}}$である.

$\square$

この場合だと、$f$の単射も全射も仮定せずに証明できました。

これは局所化がたまたまうまくいっただけでもっと一般の条件がわかりません。

例えば、剰余環$R/I$は反例のようにうまくいかない上平坦$R$加群でもありません。

何かほかにないだろうか?

おわりに

動機となった本では、平坦加群については交換している(具体的にはホモロジーとテンソルで交換している。)ためまだ示せてはいませんが、可能なのかもしれません。今回は、局所化までのまとめとして記事にしました。

解決したら、続きを書きます。

以上、ケンけんでした。

参考文献

松村英之, 可換環論, 共立出版

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