RING-L-14:整数環で見る次元と素イデアル イデアルの対応

こんにちは!ケンけんです。

今回は、有名な「環と剰余環のイデアルが一対一対応する」命題を素イデアルについて見て単純な整数環で観察しようと言う記事です。

それでは行ってみよう!

キーワード:イデアルの対応

この記事では、環はすべて単位的可換環とします。

イデアルの対応

まずは、有用な対応原理を挙げます。

命題1

$R$を環とし, $\sum_{R}$を$R$のイデアル全体の集合とする.

$I \in \sum_{R}$を取る.

$X=\{J \in \sum_{R}|I \subset J \}$とおく.

このとき, $X$と$\sum_{R/I}$は次の写像により包含関係を保つ一対一対応する.

$\Phi:X \rightarrow \sum_{R/I}(J \mapsto \pi(J))$

$\Psi:\sum_{R/I} \rightarrow X(J’ \mapsto \pi^{-1}(J’))$

($\pi:R \rightarrow R/I$は自然な準同型)

本題ではない上、少し長いので2段階に分けて示します。

まず, $\Phi , \Psi$のwell-definedを示す.

$\Phi$について

各$J \in X$に対し, $\pi(J)$がイデアルであることを示せば十分である.

$0 \in J$より, $\pi(0)=\overline{0} \in \pi(J) \neq \emptyset$である.

各$\overline{x},\overline{y} \in \pi(J)(x,y \in J),\overline{r} \in R/I$を取る.

$x+y, rx \in J$より, $\overline{x}+\overline{y}=\overline{x+y} \in \pi(J),\overline{r}\overline{x} =\overline{rx} \in \pi(J)$である.

従って, $\pi(J)$は$R/I$のイデアルである.

$\Psi$について

イデアルの逆像はイデアルより, 各$J’ \in \sum_{R/I}$に対し$\pi^{-1}(J’) \in \sum_{R}$である.

従って, $I \subset \pi^{-1}(J’)$を示せば$\pi^{-1}(J’) \in X$となる.

$\pi(I)=\{\overline{0}\} \subset J’$より, $I \subset \pi^{-1}(J’)$である.

以上から, $\Phi, \Psi$はwell-definedである.

$\pi$は全射より, 各$J’ \in \sum_{R/I}$に対して$\pi (\pi^{-1}(J’))=J’$である.(参考

従って, $\Phi \circ \Psi=\mathrm{id}_{\sum_{R/I}}$である.

$\Psi \circ \Phi=\mathrm{id}_{X}$について

各$J \in X$について, $J \subset \pi^{-1}(\pi(J))$は明らかなので逆の包含を示す.

各$x \in \pi^{-1}(\pi(J))$を取ると, $\pi(x) =\pi(j)(j \in J)$と書ける.

従って, $x-j =i \in I$である.

$I \subset J$より, $x=i+j \in J$であり$x \in J$である.

以上から, $\Psi \circ \Phi=\mathrm{id}_{X}$であり$\Phi^{-1}=\Psi$である.

$\square$

このイデアル対応原理は、剰余環$R/I$のイデアルはすべて$I \subset J$とするイデアルにより$J/I$と表記できることを示しています。(この表示は$R/I$-加群としての剰余加群と同じ。)

素イデアル・極大イデアルでの対応

ここからが、本題です。

このイデアル対応原理は、「素イデアルに制限しても同様のこと」が成立するかです。

実際に、これは成り立ちます。

系2

$R$を環とし, $\mathrm{Spec}R$を$R$の素イデアル全体の集合とする.

$I \subset R$をイデアルとして$\mathcal{V}(I)$を次のように定義する.

含む素イデアル 

このとき, $\mathcal{V}(I)$と$\mathrm{Spec}(R/I)$は次の写像により包含関係を保つ一対一対応する.

$\Phi:\mathcal{V}(I) \rightarrow \mathrm{Spec}(R/I)(\mathfrak{p} \mapsto \pi(\mathfrak{p}))$

$\Psi:\mathrm{Spec}(R/I) \rightarrow \mathcal{V}(I)(\mathfrak{p’} \mapsto \pi^{-1}(\mathfrak{p’}))$

($\pi:R \rightarrow R/I$は自然な準同型)

証明 系2

命題1よりイデアルの対応は明らかである.

従って, 素イデアルである確認をすれば十分である.

$\Phi$について

各$\mathfrak{p} \in \mathcal{V}(I)$に対して, $\overline{xy} \in \pi(\mathfrak{p})$を取る.

このとき, $xy-p =i \in I \subset \mathfrak{p}(p \in \mathfrak{p})$と書ける.

よって$xy=p+i \in \mathfrak{p}$から$x \in \mathfrak{p}$または$y \in \mathfrak{p}$となる.

従って, $\overline{x} \in \pi(\mathfrak{p})$または$\overline{y} \in \pi(\mathfrak{p})$で$\pi(\mathfrak{p}) \in \mathrm{Spec}(R/I)$である.

$\Psi$について

素イデアルの逆像は素イデアルである.

従って, 各$\mathfrak{p’} \in \mathrm{Spec}(R/I)$について$\pi^{-1}(\mathfrak{p’}) \in \mathrm{Spec}R$である.

よって, $\pi^{-1}(\mathfrak{p’}) \in \mathcal{V}(I)$である.

$\square$

素イデアルでも、対応原理が成立していますね。

剰余環の方が、情報が同一視で無視できるので見通しがよく、$I$中の性質を考える場合に剰余環の素イデアルを考えれば各$I$についてわかります。

ちなみに、極大イデアルについても成り立ちます。

系2

$R$を環とし, $\mathrm{Max}R$を$R$の極大イデアル全体の集合とする.

$I \subset R$をイデアルとして$\mathcal{M}(I)=\mathrm{Max}R \cap \mathcal{V}(I)$を取る.

このとき, $\mathcal{M}(I)$と$\mathrm{Spec}(R/I)$は次の写像により包含関係を保つ一対一対応する.

$\Phi:\mathcal{M}(I) \rightarrow \mathrm{Max}(R/I)(\mathfrak{m} \mapsto \pi(\mathfrak{m}))$

$\Psi:\mathrm{Max}(R/I) \rightarrow \mathcal{M}(I)(\mathfrak{m’} \mapsto \pi^{-1}(\mathfrak{m’}))$

($\pi:R \rightarrow R/I$は自然な準同型)

(像集合と逆像の包含を保つ性質から示せます。)

$\mathbb{Z}$で具体的に見る

今回は有理整数環$\mathbb{Z}$を使い素イデアルの対応を見てみます。

まず、$\mathbb{Z}$は1次元のPIDです。

素イデアルは、$(0)$と素数$p$で生成されるイデアル$(p)=p\mathbb{Z}$となります。

ここからわかるように、各$p$で$(p)$が極大イデアルです。

$\mathbb{Z}/(p)$が体になることは、素イデアル対応からも説明できます。

「$\mathcal{V}((p))=\{(p)\} \leftrightarrow \mathrm{Spec}(R/(p))=\{(\overline{p})\}=\{(\overline{0})\}$」

(実際に「$\mathfrak{m}$は極大 $\iff$ $R/\mathfrak{m}$は体」の証明でこれを利用するケースもある。[1]

そこで、素イデアル以外で剰余を取ります。

まず、$(0)$を除外し次元が1下がるので対応する素イデアルは必ず極大イデアルです。

例えば、$(4)$によって$\mathbb{Z}/(4)$を考えます。

すると、$(4) \subset \mathfrak{p}$とする素イデアルは$(2)$のみです。

従って, 素イデアルは$(\overline{2})$だとわかります。

(素数$p$のべきによる剰余環$\mathbb{Z}/(p^n)$は$(\overline{p})$を極大とする局所環になります。)

$(6)$では、素イデアルは$(\overline{2}),(\overline{3})$であり、それぞれが極大イデアルです。

おわりに

今回登場した$\mathcal{V}(I)$は代数幾何学におけるZariski位相を構成する際に現れます。

イデアル論がある程度かけたら、代数多様体から始める代数幾何とか書きたいな。

以上、ケンけんでした。

参考文献

[1] M.F.Atiyah; I.G.MacDonald, Introduction to Commutative Algebra,Addison-Wesley Publishing Company, London (1969)

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