こんにちは!ケンけんです。今回から、位相空間論(一般位相や点集合トポロジーとも呼ばれる)の記事を書いていきます。
長さを測るためには?
「位相空間」と聞いて何を思い浮かべますか?筆者は初見のときに「ATフィールドかな?」と思いました。(新世紀エヴァンゲリオン アニメ2話参照)
当然、数学の位相空間はそんなものではありません。
位相とは、端的に言うと「集合での元の間の近さ」を表す物差しのようなものです。このとき、三平方の定理から続く2点間の距離が思い出されます。直角三角形の斜辺部分が、2点間の長さになる話です。
図:点$P(1,1), \; Q(4,5), \; R(1,4)$についての直角三角形
上の図において、線分$PQ$の長さは三平方の定理から$\sqrt{(4-1)^2+(5-1)^2}=5$でした。
位相は、距離の一般化です。
そこで、距離はこれで求められるのだから一般化する必要あるのか疑問が出ます。が、実はこれでは求められない長さがあります。単純な例だと、有理数間の距離などがあります。実数のように三平方の定理を使いたいところですが、有理数は実数と異なり無理数を持ちません。そこから、稠密(ちゅうみつ)であるが連続ではないため「$直線の長さ = 2点間の距離$」とは言えません。
この段階で既によく知られる距離は破綻していますが、実は実数自体も怪しいものです。数直線はどこで点をとっても実数が取れるため、有用なのですがなぜそんなことが言えるのでしょう。この実数の性質は連続性と呼ばれ、大学1年次の極限の定義の際にさらっと登場し以後ほったらかしにされるものです。その場合は、「デデキンドの切断」や「上に有界な$\emptyset$出ない部分集合は上限が存在する」などを公理として認めて議論が進みます。
が、位相空間論の話ではこれらは証明されるべきものとなります。特に、実数列の極限の話をする場合は、上2つは正しくても一見関係性が見えないです。そこで次の主張に注目します。
1年次のレポート問題とかで取り上げられそうな命題です。これは、実数列が収束するかどうかの判定法で「コーシーの判定法」と呼ばれています。で、このとき実数列の方に目が行きますがコーシー列が収束する数列であることも主張しています。実はこれは当たり前ではありません。有理数列のコーシー列が有理数に収束するとは限りません。例としては、無理数$\sqrt{2}$に収束するものが存在します。「収束する」と言う定義も実数に収束することを前提にした設計なので前提から崩れかねません。本当に他の数に収束しないのでしょうか?
結局のところ、かの有名な「$\epsilon$-$\delta$論法」などは収束先がある程度目星がついているときではないと利用できないのです。「めぼしのついた実数で定義を満たすかどうか」が収束の定義でしたから。でも、収束先がもし実数かすらわからない場合はなんの役にも立たない論法なのです。
位相空間論
こうして実数の議論をするためには、全然道具も確証を得る根拠も足りないことがわかりました。
ではどうやって解決するのか?となったときに出てくるのが位相です。実数の数直線で一列に並べられると言うのは連続性があるからでした。そして無理数と有理数を取ると必ず隔たり(ずっと距離・長さと呼んでいたモノ)が存在します。収束の定義もコーシー列も2つの点(数列)の差を取っておりこの情報が実数を実数たら占めていると言えそうです。
この2点間の差を表すものとして「距離」位相と言うものが登場します。ずっと考えていた2点間の距離はこの距離位相の一種です。
この情報からさらに抜き取った「近さ」を表すものが一般位相です。これをひたすら考えると言う地味な分野が大学2年次に取り上げられる「位相空間論」となります。ひたすら基礎を積み上げる修行のような分野で、トポロジーと呼ばれます。
このワードを聞いて「ドーナツとコーヒーカップが同じものってやつは関係ないのか?」と思うでしょう。でも、あれは同じトポロジー($\rm{topology}$)でも位相幾何学なので分野としては応用先です。(参考:wikipedia)英訳だとどっちも$\rm{topology}$となってしまうため紛らわしいです。そのため、明確に区別したい場合は次のように表現します。
- 位相空間論:「点集合トポロジー( $\rm{point \; set \; topology}$,記事群の略称に使用)」
- 他に「一般位相( $\rm{general \; topology}$ )」とも
- 位相幾何学:「$\rm{topology}$」
このシリーズの目標
長い前置きが続き、この時点で察せられると思います。この理論をすべて説明するのは、あまりに長すぎます。そこで、今回も集合論と同様に小分けの目標を定めます。その第一弾は、もっとも何もない集合の元での「近さ」を決めて極限をしっかり定義することです。なので、次のような流れになります。
- 位相構造の定義
- 近傍と基
- 極限
このように目標までとても短いです。こうでもしないと永遠に終わりません。
(集合論や解析学を1から10まで完璧にやるぞ並に無謀です。絶対時間が足りません。)
なので、このように小分けにして記事にしていきます。
前提知識としては、現在完結した素朴集合論前半(NST-0~25)は最低限必要とします。
実数の構成自体は、位相の言葉なしでも説明できます。ただし、結局コーシー列を使った定義と完備化を考える理由付けは位相の言葉を使ってしまいます。だったら、基礎理論から積み上げようと言うことです。(つまりこの話題が出るのは当分先)
おわりに
数学科で高等数学を専攻している方なら、おそらく一度はこの理論で悩まされると思います。(一回だけで理解できる方は本当にすごいと思います。尊敬)実は、筆者は位相空間の中途半端な認識のせいで代数でも幾何でもずっこけました。(ブログタイトル回収)今研究している分野でも牙を向いてきているので、どこの分野へ進んでもこの理論からは逃げられません。ならば、しっかり理解しようと言うのがこのシリーズのスタンスです。
頑張って、強敵位相空間をやっつけるぞ!おー!
以上、ケンけんでした。
参考文献
古典ですが大量にトピックがある本
Nicolas Bourbaki,General Topology Chapter1-4, Springer(1989)
これも古典ですが和書として内容が密な本
森田紀一, 位相空間論, 岩波書店(1981)
とりあえず実数の構成を知りたい!と言う人向け とても見やすい数列と極限の本
井出学, 数列の極限と実数の構成, 静岡学術出版(2017)