こんにちは!ケンけんです。今回は、和集合と共通部分を考える数を無限個にすると、どう考えるとよいのかを見ていきます。特に、可算集合と非可算集合との差を考えます。
キーワード:無限個の和集合と共通部分
必要知識:等濃と可算性
有限個から考える
無限個を考えるためにはまず有限個の場合を考えると見通しがよくなります。
以前の記事では、2個の集合で和集合と共通部分を考えていました。それでは、3個で考えるとどうでしょう。状況として、普遍集合$U$とその部分集合$X,Y,Z$を考えます。既に作成した問題集の中で共通部分は次のような「結合律」を満たすことがわかります。
$$(X \cap Y) \cap Z=X \cap (Y \cap Z)$$
つまり共通部分を考える順番に依存しないので、実際には3つの集合を同時に共通部分を考えた場合は「”()”」が必要なく「$X \cap Y \cap Z$」と書いてもよいと言えます。これを述語で記述すると次のようになります。
$$X \cap Y \cap Z=\{x \in U|(x \in X) \wedge (x \in Y) \wedge (x \in Z)\}$$
では、4個の集合はどうでしょう。4個目の集合を$W \subset U$とします。すると3個の場合をうまく使うことで3個の場合と同じ「”()”」をどこで考えてもいいことがわかります。
$$(X \cap Y) \cap Z \cap W=X \cap (Y \cap Z) \cap W =X \cap Y \cap (Z \cap W)$$
証明の方針は次のようになります。
- $(X \cap Y) \cap Z \cap W=((X \cap Y) \cap Z) \cap W$,
- $((X \cap Y) \cap Z) \cap W= (X \cap (Y \cap Z)) \cap W$,
- $(X \cap (Y \cap Z)) \cap W=X \cap (Y \cap Z) \cap W$,
- 従って, 「$(X \cap Y) \cap Z \cap W=X \cap (Y \cap Z) \cap W$」となる.
このようにして、「”()”」内で3個の共通部分の性質を利用し「”()”」をずらしていきます。
と言うわけで、4個の場合は3個の共通部分の性質を使ってどこで「”()”」をとっても集合として変わらないので一気に「$X \cap Y \cap Z \cap W$」と考えてもいいことになりました。
$$X \cap Y \cap Z \cap W=\{x \in U|(x \in X) \wedge (x \in Y) \wedge (x \in Z) \wedge (x\in W)\}$$
同様に5個、6個,$\ldots $と考えることができ任意個$n \in \mathbb{N}$でも考えることができます。そうすると、すべての集合を書き下すのは面倒なので記号が必要ですね。そこで次のように記述します。
$$\cap_{i=1}^{n}X_{i}=\{x \in U| \forall i \in \{1, 2, \ldots ,n \}(x \in X_{i})\}=X_{1} \cap X_{2} \cap \cdots \cap X_{n}$$
述語部分は実は、論理積の一般化で$\wedge_{i=1}^{n}(x \in X_{i})$と記述することができます。本来は命題から考えるべきところですが、命題をたくさん考えるのではあまり納得感が出せないため集合の話で取り上げました。
和集合も同様に考えて、次のように表されます。
$$\cup_{i=1}^{n}X_{i}=\{x \in U| \exists i \in \{1, 2, \ldots ,n \}(x \in X_{i})\}=X_{1} \cup X_{2} \cup \cdots \cup X_{n}$$
述語部分は、論理和の一般化で$\vee_{i=1}^{n}(x \in X_{i})$と書けます。
ここまで、集合の左下に考えている集合の数だけ用意し$\{1, 2, \ldots ,n \}$から取っていました。これは「添字集合」と呼びます。この添字集合を無限集合$\mathbb{N}$にすれば、無限個の集合で共通部分を考えられます。そして述語部分を見ると無限個にしても問題ないことがわかります。それは、「$\forall$」と「$\exists$」で元の情報を決めており、$\mathbb{N}$の元の数には関係ないためです。従って、次のように書いてもよくなります。
- $\cap_{i=1}^{\infty}X_{i}=\{x \in U| \forall i \in \{1, 2, \ldots ,n \}(x \in X_{i})\}=X_{1} \cap X_{2} \cap \cdots $
- $\cup_{i=1}^{\infty}X_{i}=\{x \in U| \exists i \in \{1, 2, \ldots ,n \}(x \in X_{i})\}=X_{1} \cup X_{2} \cup \cdots $
「$\forall$」と「$\exists$」が元の数には関係ないため、$\mathbb{N}$からさらに非可算集合$I$に置き換えても述語部分の添え字集合が置き換わるだけなので問題ありません。
無限個の共通部分と和集合
と言うわけで、一般化された和集合と共通部分を定義して整理します。
定義分の記述をきれいにするために、集合族を与えました。これは添え字集合から$2^{U}$への写像とみなすことができますね。
$$f:I \rightarrow 2^{U}(i \mapsto X_{i})についてf=\{(i,X_{i}) \in I \times 2^{U}\}$$
久々ですが直積集合の場合を記述しました。当然$f$は$I$と等濃なのdhakasです。
まず、異なる添字で同じ部分集合を指定しては意味がないので$f$を常に単射としてしまいます。そして、全射になるように$f’:I \rightarrow f(I)$と制限することで$f’$は全単射となります。つまり、$I \sim f(I)$です。そして、直積集合の表示から次の写像も全単射であることがわかりますね。
$$g:f=\{(i,X_{i}) \in I \times 2^{U}\} \rightarrow \{X_{i}\}_{i \in I}((i,X_{i}) \mapsto X_{i})$$
$f \sim \{X_{i}\}_{i \in I}$から、同じ集合とみなしてもいいと言うことです。本によっては、集合族を写像と同一視と定義していますが、こういうからくりがあるのです。[1]
書き下す時の落とし穴
さて、導入の表示で気づいたかもしれませんが非可算集合が添字集合の場合は一列に書き下した表記をしていません。
ここまで集合論をやってきた方ならもうなぜか、わかりますね?
それは、集合を書き下せないからです。非可算集合は$\mathbb{N}$と等濃ではない集合なので元を数え上げることができません。それは、等濃な$\{X_{i}\}_{i \in I}$でも同様です。($I \sim f, f \sim \{X_{i}\}_{i \in I}$より)そうなると、集合が外延的記法(元をすべて書き下す方法)ができない場合と同様に「$X_{a} \cap X_{b} \cap \cdots$」と書くことは物理的に不可能です。
可算集合$I$の場合書き下せるのは、結局$\mathbb{N}$と等濃なので取ってきた集合族$\{X_{i}\}_{i \in I}$を$\{X_{i}\}_{i \in \mathbb{N}}$に書き換えて$\mathbb{N}$の順序に並べることができるからです。
考えている集合の元がわかっている場合は、外延的記法で「$\cdots$」を使ってもいいのでした。
しかし、$I$が非可算集合の場合は$i \in I$を取った後に次に来る$I$の元が$\mathbb{N}$のように予想できません。従って、「$\cdots$」を使った省略を使ってはならず、述語を利用して定義する必要があるのでした。
集合の記法と同じ解決法ですね。
おわりに
可算非可算の差が、元と同様に無限個の表示に現れていることが分かったと思います。今後は、定義部分に有限個や可算個などの条件がついて回るので重要な認識だったりします。これを取り違えると反例まみれになったりしますし。
以上、ケンけんでした。
参考文献
集合族の定義で写像を用いていた書籍(和書)
[1] 藤岡敦,手を動かしてまなぶ 集合と位相,裳華房(2020)