こんにちは!ケンけんです。以前の記事にて写像で写した元の集合「像集合」を取り扱いましたが、実は値域から定義域の部分集合を指定することもできます。それが、「逆像」です。今回は、この逆像を定義して像集合との関係を見ていきます。
キーワード:逆像
導入
発想の元は全単射の場合存在する逆写像です。

図:全単射$f$とその逆写像$f^{-1}$の図
こうしてみると$f$の値域$Y$から$X$の元を指定できると言えます。これは、逆写像が考えられている時点でわかります。では、$f$が全単射ではなくなったら?それを埋めるのが逆像です。
例えば、$f(X)$の一元からなる部分集合$\{y\}$を取ると$y=f(x)$とする$x \in X$が存在するのでした。$f$が単射の場合は、この$x$がただ一つに定まります。($y=f(x)=f(x’) \Rightarrow x=x’$)
しかし、単射ではない場合は$y=f(x)=f(x’)$が成り立つが$x \neq x’$とする$x,x’ \in X$が存在します。すると、像が$y$になる$X$の元の集合を考えられます。これが「逆像」です。これを集合の記号であらわすと次のようになります。
$$\{x \in X|f(x) \in \{y\}\}=\{x \in X|f(x) =y\} \cdots \rm{A}$$
では、全射かどうかの差はどこに出るでしょうか。それは、この逆像が必ず$\emptyset$にならないことです。任意の$y \in Y$についてある$x \in X$が必ず存在するため、$\rm{A}$の集合が空集合になりません。
しかし、全射ではない場合は、ある$y \in Y$について$\{x \in X|f(x) \in \{y\}\}=\emptyset$となる場合があり得ます。
そして、全単射で考えると$y \in Y$に対して逆写像で$f^{-1}(y)=x’ \in X$と表せます。この$x’$により、$f^{-1}(\{y\})=\{x \in X|f(x) \in \{y\}\}=\{x’\}$と表すことができます。こうして、逆像は全単射の場合は逆写像の像集合として特徴付けられるわけです。
これをひとつの$Y$の元ではなく、部分集合$B$にすることで次のような逆像を考えることができます。
$$A=\{x \in X|f(x) \in B\}$$
述語部分から、$f(A) \subset B$であることもすぐにわかります。
最後に、空集合の逆像$A=\{x \in X|f(x) \in \emptyset\}$を考えます。この場合、$x \in A$は$f(x)$が$Y$の元ではないことを意味します。しかし、$f$は写像なのでそんな$X$の元は存在しませんね。よって、この逆像は空集合だと言えます。
逆像 定義
それでは導入に従って定義していきます。
$U$:普遍集合 $X,Y \subset U$ $B \subset Y$
$f:X \rightarrow Y$:写像
$f^{-1}(B)=\{x \in X|f(x) \in B\}$:$f$の$B$についての逆像($\rm{inverse \; image}$)
$f^{-1}(\emptyset)=\emptyset$である.
像集合との関係
導入で、逆像は全単射の場合の像集合だと話しました。では、逆像の像集合や像集合の逆像はどうなるのでしょうか。一般の場合は次のようになります。
$U$を普遍集合として, $X,Y \subset U, A \subset X,B \subset Y$を取る.また$f:X \rightarrow Y$を写像とする. このとき, 次のことが成り立つ.
- $f(f^{-1}(B)) \subset B$,
- $A \subset f^{-1}(f(A))$,
- $fは全射 \Rightarrow f(f^{-1}(B)) = B$,
- $fは単射 \Rightarrow f^{-1}(f(A)) = A$.
1. 定義から明らかである.
2. $a \in A$に対して$f(a) \in f(A)$である.
従って, $a \in f^{-1}(f(A))$であるため$A \subset f^{-1}(f(A))$である.
3. $B \subset f(f^{-1}(B))$を示せば十分である.
$y \in B$を取ると, $f$が全射よりある$x \in X$により$y=f(x)$と表せる.
このとき, $x \in f^{-1}(B)$であるため$y \in f(f^{-1}(B))$であると言える.
従って, $B \subset f(f^{-1}(B))$である.
4. $f^{-1}(f(A)) \subset A$を示せば十分である.
$x \in f^{-1}(f(A))$を取ると, $f(x) \in f(A)$である.
従って, ある$a \in A$によって$f(x)=f(a)$である.
$f$は単射より$x=a \in A$である.
以上から, $f^{-1}(f(A)) \subset A$である.
$\square$
このように、単射や全射を仮定しない場合は$f$と$f^{-1}$が写像の合成のようには振舞えなくなることがわかります。全単射の場合は、3.と4.を組み合わせて全単射の定義と同じことを像集合と逆像でもできることがわかります。
では実際にどんな反例(うまくいかない例)があるのか見てみましょう。
$f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}(x \mapsto x^2)$を取る.
これは、全射でも単射でもない実数値関数である.
1.の反例 $[-1,1]=\{x \in \mathbb{R}|-1 \leq x \leq 1\}$
$-1 \in B$は$-1 \notin f(\mathbb{R})$である.
従って, $-1 \notin f(\mathbb{R}) \supset f(f^{-1}(B))$から$-1 \notin f(f^{-1}(B))$である.
2.の反例 $A=\sqrt{2} \mathbb{N}=\{\sqrt{2}k| k \in \mathbb{N}\}$
$x=-\sqrt{2}$について$f(x)=2 =(\sqrt{2})^2$である.
従って, $x \in f^{-1}(f(A))$であるが, $x \notin A$である.(非負整数$\mathbb{N}$に制限しているため)
よって, $f^{-1}(f(A)) \nsubseteq A$である.
高校で数学Ⅲを学んだ方は、この例はなじみがあるのではと思います。これは、逆関数が存在しない単純な例の一つです。(逆関数は逆写像のこと)
その時は、全単射ではない(一対一対応ではない)から逆関数が存在しないとしていましたが、実際には単射も全射も満たさないやつだったのです。
おわりに
像集合も大事ですが、意外と逆像も重宝します。代数系では、像集合では保たない代数構造を逆像は持っていることがあるため、「引き戻し」として利用されます。その話は代数学の記事に任せるとして、全単射から緩める発想は単射・全射だけでなく逆像の理解も助けてくれます。
以上、ケンけんでした。