MOD-L-3:絶対に理解する Hom関手 (その1)

2023/11/17 数式のはみだしを修正しました!

こんにちは!ケンけんです。今回は、加群論の始めの方に現れる厄介者「$\mathrm{Hom}$関手」を調べたので記事を書いていこうと思います。

キーワード:$\mathrm{Hom}$関手

必要知識:環上の加群(定義程度)・加群準同型(線形写像)

この記事で使用する環はすべて単位的可換環です。

どこにHomが使われている?

まず、どんなところにこの記号が表れるのか思い返すと、準同型写像全体の集合を意味するものとして登場します。私は、環や加群をよく扱うのでEisenbud先生の本から加群の場合の説明を引用します。

If $M$ and $N$ are $R$-modules, then we write $\mathrm{Hom}_{R}(M,N)$ for the abelian group of of all homomorphisms from $M$ to $N$.

David Eisenbud, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry,1995,springer

一般的に、加法群の準同型写像全体はアーベル群になります。加群の場合は、これに作用を追加して加群とみなすことができると言うわけです。(命題1で考えます)

これは加群に限らず群や環にもこの記号を使って表しますが、加群で特に大きな意味を持っています。でも、どんな風に役に立つのか?と言われると一言で説明できないです。

  • 加群の圏では、関手となる(??)
  • テンソル積と随伴関係がある(???)
  • $\mathrm{Hom}_{R}(M,N)$の鎖複体のホモロジー・コホモロジーを調べる(????)

とまぁ、専門外のみならず専攻で手を出し始めた段階でも謎過ぎるほどに、しかし重要な情報をたくさん持っていると言えます。従って、可換代数・環論を学ぶためには避けて通れない。

ただし、手を出すとやることが多すぎるためまずは加群の話で閉じているものを見ていきその中に隠れる圏論のような話を認識するのが今回のスタンスです。

加群としての$\mathrm{Hom}$

関手とは、圏論の言葉なので一端取り下げて$\mathrm{Hom}$の部分だけを見ていきましょう。

まず、線形写像全体の集合は加群となります。

命題1

$M,N$を$R$-加群とし, $\mathrm{Hom}_{R}(M,N)=\{f:M \rightarrow N|fはR線形写像\}$と表す.

このとき,$\mathrm{Hom}_{R}(M,N)$は次の演算により$R$-加群となる.

  • $+:\mathrm{Hom}_{R}(M,N) \times \mathrm{Hom}_{R}(M,N) \rightarrow \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$
  • $\cdot:R \times \mathrm{Hom}_{R}(M,N) \rightarrow \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$

ただし, $x \in M$に対して$(f+g)(x)=f(x)+g(x)$, $(r \cdot f)(x)=r(f(x))$である.

$+, \cdot$は, 線形写像の$\rm{well \; defined}$からすぐに$\rm{well \; defined}$だとわかる.

従って,加群であることを確認する.

$f,g \in \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$, $r,t \in R$を取る.

任意の$x \in M$に対して次のようになる.

$(r \cdot (f+g))(x)=rf(x)+rg(x)=(r \cdot f)(x)+(r \cdot g)(x)$

$((r+t) \cdot f)(x)=rf(x)+tf(x)=(r \cdot f)(x)+(t \cdot f)(x)$

$((rt) \cdot f)(x)=r(tf(x))=r((t \cdot f)(x))=(r \cdot (t \cdot f))(x)$

$(1_{R} \cdot f)(x)=1_{R} \cdot (f(x))=f(x)$

以上から, $r \cdot (f+g)=r \cdot f +r \cdot g$, $(r+t) \cdot f =r \cdot f+t \cdot f$,$(rt) \cdot f=r \cdot (t \cdot f)$, $1_{R} \cdot f=f$から$\mathrm{Hom}_{R}(M,N)$は$R$-加群である.

$\square$

注意としては、元としての一致が写像としての一致を確認する必要があることです。ふとした時に忘れやすいので私は気を付けています。

加群だとわかったなら、線形写像全体の加群の間で線形写像を考えるとどうなるのか、「()」内の加群を別のものに置き換えられるのかといった定義によった話や、記号的な疑問が出ると思います。

「()」内の加群$M,N$は、線形写像の定義域と値域なので別の線形写像と合成するように取ると書き換えることができます。それが、次のような写像です。

命題2

$L,M,N,P$を$R$-加群とし, $f \in \mathrm{Hom}_{R}(L,M), \; g \in \mathrm{Hom}_{R}(N,P)$を取る.

  1. このとき, 次の写像は$R$-線形写像である.
    1. $f^{*}:\mathrm{Hom}_{R}(M,N) \rightarrow \mathrm{Hom}_{R}(L,N)(h \mapsto h \circ f)$
    2. $g_{*}:\mathrm{Hom}_{R}(M,N) \rightarrow \mathrm{Hom}_{R}(M,P)(h \mapsto g \circ h)$
  2. 1.の記号の下で次が成り立つ.
    • $(\mathrm{id}_{M})^{*}=\mathrm{id}_{\mathrm{Hom}_{R}(M,N)}, \; (\mathrm{id}_{N})_{*}=\mathrm{id}_{\mathrm{Hom}_{R}(M,N)}$

1. 単純より1.1.のみ調べる.

$\rm{well \; defined}$は写像の合成から従う.

$\alpha, \beta \in \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$と$r \in R$を取る.

任意の$x \in L$に対して, 次のようになる.

$f^{*}(\alpha + \beta)(x)=(\alpha + \beta)(f(x))=(f^{*}(\alpha)+f^{*}(\beta))(x)$,

$f^{*}(r \alpha)(x)=r \alpha (f(x))=r(\alpha(f(x)))=r f^{*}(\alpha)(x)$.

従って, $f^{*}(\alpha + \beta)=f^{*}(\alpha)+f^{*}(\beta), \; f^{*}(r \alpha)=r f^{*}(\alpha)$より$f^{*}$は$R$-線形写像である.

2. $(\mathrm{id}_{M})^{*}=\mathrm{id}_{\mathrm{Hom}_{R}(M,N)}$を示す.

$h \in \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$と任意の$x \in M$に対して次のようになる.

$(\mathrm{id}_{M})^{*}(h)(x)=h(\mathrm{id}_{M}(x))=h(x)$.

従って, $(\mathrm{id}_{M})^{*}(h)=h$より$\mathrm{id}_{M})^{*}(h)=\mathrm{id}_{\mathrm{Hom}_{R}(M,N)}$である.

$\square$

上の$*$が上下につくときの覚え方は、$f^{*}$は「定義域」を$f$の定義域(前)に上げるところから上に、$f_{*}$は「値域」を$f$の値域(後ろ)に下げるところから下に着けるイメージです。

こんな風に私はラジコン操作で覚えています。

ところで$f^{*}$の場合は$P$が、$g_{*}$の場合は$L$が何も必要ないことに気づいたでしょうか。また、$*$付きの線形写像自体は、2つの加群だけでよかったので$*$付きの線形写像の定義域や値域でない加群も自由に選ぶことが出きます。

説明のために一度に加群を用意しましたが、実際には次の部分だけで完結していたわけです。

  • $f^{*}$について$L \overset{f}{\rightarrow} M \rightarrow N$.($N$は任意に取れる.)
  • $g_{*}$について$M \rightarrow N \overset{g}{\rightarrow} P$.($M$は任意に取れる.)

これが、$\mathrm{Hom}$の操作で簡単なものの一つです。

*付き写像の性質

$*$をつける操作は、元の線形写像に依存しています。そのため、合成や単射や全射を保つのかといった問題があります。

まずは合成について考えます。そうすると$*$の上付きと下付きで性質が違うとわかります。

命題3

$L,M,N$を$R$-加群とし, $f \in \mathrm{Hom}_{R}(L,M), \; g \in \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$を取る.

  1. $(g \circ f)^{*}=f^{*} \circ g^{*}$,
  2. $(g \circ f)_{*}=g_{*} \circ f_{*}$.

1. 任意の$R$-加群$P$と$h \in \mathrm{Hom}_{R}(N,P)$を取る.

このとき, 次のようにして1.が成り立つことが示される.

$(f^{*} \circ g^{*})(h)=f^{*}(g^{*}(h))=h \circ (g \circ f)=(g \circ f)^{*}(h)$.

2. 任意の$R$-加群$K$と$k \in \mathrm{Hom}_{R}(K,L)$を取る.

このとき, 次のようにして2.が成り立つことが示される.

$(g_{*} \circ f_{*})(k)=g_{*}(f_{*}(k))=(g \circ f) \circ k=(g \circ f)_{*}(k)$.

$\square$

ここから、上付きの場合は写像の合成順序が逆になっていることがわかります。そうすると次に気になる単射や全射性で結構な違いを生み出します。

命題4

$M,N$を$R$-加群とし, $f \in \mathrm{Hom}_{R}(M,N)$を取る.

  1. $f$:全射 $\iff$ 任意の$R$-加群$P$に対し$f^{*}:\mathrm{Hom}_{R}(N,P) \rightarrow \mathrm{Hom}_{R}(M,P)$:単射.
  2. $f$:単射 $\iff$ 任意の$R$-加群$L$に対し$f_{*}:\mathrm{Hom}_{R}(L,M) \rightarrow \mathrm{Hom}_{R}(L,N)$:単射.

1. $f$が全射と仮定して任意の$R$-加群$P$と$\alpha \in \mathrm{Ker}f^{*}$を取る.

このとき, $f^{*}(\alpha)=\alpha \circ f=0$である.

$f$は全射より, $\alpha(N)=(\alpha \circ f)(M)=0(M)=\{0_{P}\}$である.

$\alpha=0$から$\mathrm{Ker}f^{*} \subset \{0\}$である.

逆の包含は明らかより, $f^{*}$は単射である.

逆に$f^{*}$を任意の$R$-加群$P$に対して単射であると仮定すると, $P=N/\mathrm{Im}f$としてもよい.

このとき, 自然な準同型$\pi :N \rightarrow P$について$f^{*}(\pi)=\pi \circ f=0$である.

従って,$\pi \in \mathrm{Ker}f^{*}=\{0\}$から$x \in N$に対して$\overline{x}=\pi(x)=0(x)=\overline{0}$である.

以上から, $x \in \mathrm{Im}f$となり$N \subset \mathrm{Im}f$である.

逆の包含は明らかより,$\mathrm{Im}f=N$から$f$は全射である.

2.  $f$を単射と仮定して任意の$R$-加群$L$と$\alpha, \beta \in \mathrm{Hom}_{R}(L,M)$を取る.

$f_{*}(\alpha)=f_{*}(\beta)$を仮定すると, $x \in L$に対して$f_{*}(\alpha)(x)=f_{*}(\beta)(x)$である.

$f$の単射性から次のことが成り立つ.

$f(\alpha(x))=f_{*}(\alpha)(x)=f_{*}(\beta)(x)=f(\beta(x)) \Rightarrow \alpha(x)=\beta(x)$.

従って, $\alpha =\beta$より$f_{*}$は単射である.

逆に,任意の$R$加群$L$について$f_{*}$を単射と仮定すると, $L=\mathrm{Ker}f$としてもよい.

包含写像$i:\mathrm{Ker}f \rightarrow M$について$\mathrm{Im}i=\mathrm{Ker}f$より$f \circ i=0$である.

従って, $i \in \mathrm{Ker}f_{*}=\{0\}$より任意の$x \in \mathrm{Ker}f$について$x=i(x)=0(x)=0_{L}$となる.

以上から, $\mathrm{Ker}f=\{0_{L}\}$となり$f$は単射である.

$\square$

$*$下付きの方が、「単射$\iff$単射」で素直な一方で$*$上付きでは「全射$\iff$単射」と全然変わっていることがわかります。加群や環として見ている間はなかなか差がわかりませんが、実は圏で見ると$*$を取ることは同じ加群の圏の間の関手とみなすことで見えてきます。

圏についてまだ議論していないので詳細は省きますが、写像の「単射」と「全射」は圏においてはある意味逆の性質であると言うことです。こんなところから、既に圏論的な話が見え隠れしているわけですね。

おわりに

命題3と4の話は、なんとなくで読み飛ばされたり証明して次の完全列の話にすぐに行きがちですが、命題3の時点で$*$付き写像の性質の差やそこから見え隠れする圏論的情報をくみ取り4.の話へ続くことが重要な気がしています。この差が左右の完全性の差に直結していくわけですから、あらかじめ認識しておくことですぐに引き出せたりすると思います。

(実はこのあたりの話は、筆者が初めて取り組んだ時にこんがらがって放り投げた話だったりする。)

一般の記事ではないのでシリーズと言うわけではないですが、次書くとしたら$*$付き写像の完全性とそこから見える$\mathrm{Hom}$の性質を書くと思います。

以上、ケンけんでした。

続きが出ました!

参考文献

本文でも引用したいろいろな内容が網羅的に書かれた本

David Eisenbud, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry,springer(1995)

はじめて取り組んで筆者が苦しんだ元凶の本

M.F.Atiyah; I.G.MacDonald, Introduction to Commutative Algebra,Addison-Wesley Publishing Company, London (1969)

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