RING-L-10:べき零元についてのメモ

こんにちは!ケンけんです。今回は、べき零元についていろいろ調べたことを記事にしていきます。

キーワード:べき零元

べき零元

べき零元は読んで字のごとく、べき乗することで零元にできる元です。

定義

$R$:単位的可換環 $x \in R$

$x$はべき零元(nilpotent element)$\overset{def}{\iff} \exists n >0(x^{n}=0_{R})$.

  • $\mathrm{nil}(R)=\{x \in R|x:べき零元\}$はイデアルをなす.

$\mathrm{nil}(R)$はべき零根基(nilradical)と呼ばれ、次のような特徴づけがされます。

命題

$R$:単位的可換環 $x \in R$ $\mathrm{Spec}R$:素イデアル全体の集合

$$\mathrm{nil}(R)=\underset{\mathfrak{p} \in \mathrm{Spec}R}{\cap}\mathfrak{p}$$.

この表示から、任意のべき零元はすべての素イデアルに含まれることも意味します。また、べき零元は零因子でもあります。

課題

まずは次のような問題が思いつきました。

課題1

$R$:単位的可換環 $x \in R$ $\mathrm{nil}(R)$:べき零根基

$\mathrm{Ann}_R(x)=(x) \Rightarrow x$はべき零元.

証明 課題1

$x \in \mathrm{Ann}_{R}(x)$より$x(x)=(0_{R})$である.

$x^2=0_{R}$より, $x$はべき零元である.

$\square$

次に、ある書籍の演習問題から少しいじった課題を考えます。

12.A local ring contains no idenpotent $\neq$ $0, 1$.

M.F.Atiyah; I.G.MacDonald, Introduction to Commutative Algebra,Addison-Wesley Publishing Company, London (1969),p11

この演習問題は、冪等元(idenpotent)についてですがこれをべき零元に置き換えても成り立つのかということです。

課題2

局所環のべき零元は, $0$のみであるか.

残念ながらこれには反例が存在する。

反例 課題2

$\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}$は$(\overline{3})$を極大イデアルとする局所環である.

このとき, $\overline{3}^2=\overline{0}$から$\overline{3}$は$\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}$のべき零元であるが, $\overline{3} \neq \overline{0}$である.

元は整域の$\mathbb{Z}$の剰余環を、素イデアルではない$9 \mathbb{Z}$でとっているため整域でなくなっている。

これの別版として整域にすればすぐに次のことがすぐにわかります。

命題

整域のべき零元は, $0$のみである.

証明 命題

べき零元は、零因子より整域であることから零元のみである.

$\square$

次の課題はよく書籍の演習問題として取り上げられている。

課題3

$R$:単位的可換環 

$a \in \mathrm{nil}(R) \Rightarrow 1_{R}-a$は$R$の単元である.

証明 課題3

$a \in \mathrm{nil}(R)$より, ある$n \geq 0$で$x^{n}=0_{R}$である.

従って, $1_{R}=1_{R}-a^{n}=(1_{R}-a)(1_{R}+a+a^{2}+ \cdots +a^{n-1})$となる.

$(1_{R}-a)^{-1}=1_{R}+a+a^{2}+ \cdots +a^{n-1}$より$1_{R}-a$は$R$の単元である.

$\square$

これは、環$R$のJacobson根基$J(R)=\underset{\mathfrak{m} \in \mathrm{Max}(R)}{\cap}\mathfrak{m}$について$\mathrm{nil}(R) \subset J(R)$からも従う。

Propsition 1.9. $x \in \mathfrak{R} \iff 1-xy$ is a unit in $A$ for all $y \in A$

M.F.Atiyah; I.G.MacDonald, Introduction to Commutative Algebra,Addison-Wesley Publishing Company, London (1969),p6

(この本では環$R$を$A$、$A$のJacobson根基を$\mathfrak{R}$で表しています。)なので、課題3は、実際には次のように一般化される。

課題3′

$R$:単位的可換環 

$a \in \mathrm{nil}(R) \Rightarrow \forall x \in R (1_{R}-ax:Rの単元)$.

逆は必ずしも成立はしません。従って、次の命題が成り立ちます。

命題 (課題4)

$R$:単位的可換環 

$R^{\times}=\mathrm{nil}(R)+R^{\times}$

$R^{\times} \subset \mathrm{nil}(R)+R^{\times}$は明らかである.

任意の$a+x \in \mathrm{nil}(R)+R^{\times}$を取る. ($a \in \mathrm{nil}(R), \; x \in R^{\times}$)

$y=x^{-1}$を取ると, 課題3’から$1_{R}-(-y)a \in R^{\times}$である.

従って, $a+x=x(1_{R}-(-y)a) \in R^{\times}$となる.

$\square$

おわりに

べき零元は、環論をやっていてもあまり出てこない話題なので改めて調べるといろいろ情報を持っていることがわかります。特に局所環においては、冪等元と明確に違うことを表しています。(課題2)

今回は、すべて可換環で考えていたので行列環も許す非可換の場合を見るともっと性質があるのかもしれません。

以上、ケンけんでした。

参考文献

命題・演習を引用した書籍

M.F.Atiyah; I.G.MacDonald, Introduction to Commutative Algebra,Addison-Wesley Publishing Company, London (1969)

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