NST-20:対応を結ぶ 合成写像

こんにちは!ケンけんです。前回は、定義域の集合を部分集合にする写像の制限を扱いました。

今回は、合成写像とそこから出てくる写像の一致を扱います。

キーワード:合成写像

導入

イメージしやすい整数の倍々を考えます。

4の倍数は、適当な整数を2回2倍することで作ることができます。

$$適当な整数xを「x \rightarrow 2x \rightarrow 2(2x)=4x」$$

これを写像で考えてみましょう。

$$h=\{(x,y) \in \mathbb{Z} \times \mathbb{Z}|y=4x \}$$

または次のように書けます。

$$h:\mathbb{Z} \rightarrow \mathbb{Z}(x \mapsto 4x)$$

これが写像かは、well-defindを調べればいいです。

例 NST-20-1

任意の$x,y \in \mathbb{Z}$について$x=y$を仮定する。

このとき、両辺を4倍して$4x=4y$となる。

従って、$h(x)=h(y)$。

以上から、hはwell-definedであるため写像である。

$\square$

では、この4倍する操作を2倍を2回する操作と見るとどうでしょう。

$f=\{(x,y) \in \mathbb{Z} \times \mathbb{Z}|y=2x \}$は、4倍同様に「$f:\mathbb{Z} \rightarrow \mathbb{Z}(x \mapsto 2x)$」として写像になります。$h$は写像$f$を2回考えた形になっています。記号で書こうとすると「$f(f(x))=f(2x)=4x$」と書ける。左端の写像$f$が2回使われているのでこれを形式的に「$f \circ f$」と書いてみると次のように写像で説明される。

$$f \circ f:\mathbb{Z} \rightarrow \mathbb{Z}(x \mapsto 4x)$$

これって、$h$と同じですね。写像の対応として全く同じです。

確認 NST-20-2

$h:\mathbb{Z} \rightarrow \mathbb{Z}(x \mapsto 4x)$

$f \circ f:\mathbb{Z} \rightarrow \mathbb{Z}(x \mapsto 4x)$

任意の$x \in \mathbb{Z}$について$h(x)=4x=(f \circ f)(x)$より全く同じ$(x,4x)$を持つ。

従って、$h$と$f \circ f$は直積集合として同じである。

ここから、$f \circ f$は$h$ト同様の写像であり$f$を2回考えたと一目見てわかるようにかけています。これを、「$f$と$f$を合成してできる写像」として合成写像と呼びます。

整数は単純な場合です。特に、$\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}$で考えているので、定義域と値域が異なる集合で考えられる必要があります。しかし、直積集合で写像を考えるとすぐにわかります。

確認 NST-20-3

$U$:普遍集合 $X,Y,Z \subset U$

$f:X \rightarrow Y,g:Y \rightarrow Z$:写像

$f,g$は直積集合で次のように書ける。

  • $f=\{(x,y) \in X \times Y| \forall x \in X, \exists ! y \in Y((x,y) \in f)\}$
  • $g=\{(y,z) \in Y \times Z| \forall y \in Y, \exists ! z \in Z((y,z) \in g)\}$

従って、$f$の像集合$f(X)$について$g$を制限する。

$g|_{f(X)}=\{(y,z) \in f(X) \times Z| \forall y \in f(X), \exists ! z \in Z((y,z) \in g)\} \subset g$

ここから、$f$と$g$の条件の述語をすべて$X$の元主体にできる。

$\forall x \in X, \exists ! y \in Y,\exists ! z \in Z(((x,y) \in f) \wedge ((y,z) \in g))$

$g \circ f=\{(x,z) \in X \times Z|\forall x \in X, \exists ! y \in Y,\exists ! z \in Z(((x,y) \in f) \wedge ((y,z) \in g))\}$

これは写像である。

最後の方では、論理式だらけなので一つずつ解説します。

まず、$f$と$g$の直積集合の表記は問題ないです。次の写像の制限を出したのは、これから$f$の像である$Y$の元に対して一意的に$Z$の元が定まる情報が欲しかったからです。そうすると元の議論が次のような流れになります。

  • 「$任意の x \in Xに対する一意的なYの元 y$」と「$任意のy \in Yに対する一意的なZの元 z$」
  • 「$任意の x \in Xに対する一意的なYの元 yと、このyに対する一意的なZの元 z$」

写像ごとに考えている場合は、「」ごとに分かれた話ですが基準の「任意の~」を$X$の元に絞ることで「$任意のx \in Xに対する一意的な特別なZの元z$」に話をひとつにまとめることができました。これは、写像の定義を満たしています。

以上から、一般の場合も整数で考えた合成が問題ないとわかります。

定義 合成写像

それでは、定義します。

定義 NST-20-4

$U$:普遍集合 $X,Y,Z \subset U$

$f:X \rightarrow Y,g:Y \rightarrow Z$:写像

$g \circ f=\{(x,z) \in X \times Z|\forall x \in X, \exists ! y \in Y,\exists ! z \in Z(((x,y) \in f) \wedge ((y,z) \in g))\}$

$g \circ f$:$f$と$g$の合成写像($composition$ $mapping$)

上の表記は、一般の書籍では次のように書けます。

$$\forall x \in X \exists ! y \in Y \exists ! z \in Z((f(x)=y) \wedge (g(y)=z))$$

$(g \circ f)(x)=z$は、述語の部分から$z=g(y)=g(f(x))$と書き表せます。

これより、任意の$x \in X$についてg \circ fは次のように表現できます。

$$(g \circ f)(x)=g(f(x))$$

直積集合を使わない場合は、この情報が証明に必要な道具となります。

写像の合成の小話

合成写像の例たちを見ていきます。簡単のために写像はすべて定義域・値域ともに$\mathbb{R}$とします。

1.$n$倍写像

導入でも見たように、倍数写像はその因数の倍数写像の合成で書けます。少し大きな数で$36=2^{2} \cdot 3^{2}$倍写像を考えます。これは、$2$倍写像と$3$倍写像を2個ずつ合成した写像だと言えます。$m_{2}$を$2$倍写像、$m_{3}$を$3$倍写像とすると$m_{2} \circ m_{2} \circ m_{3} \circ m_{3}$により$36$倍写像が表せます。

実はこの例は、乗法(掛け算)を少し制限して考えています。

2.関数の合成

高校時代に数学Ⅲを履修した場合は目にしたことがあるでしょう。関数は、写像の一種であり特に実数・複素数を定義域や値域に取っていることが多いです。例えば関数について合成は次のようになります。

$$f(x)=2x, g(x)=\sin x に対して(g \circ f)(x)=\sin 2x$$

しかし、倍数写像と決定的に異なる点があります。それは、合成の順番を取り換えてもいいかです。本来は写像の一致を定めてから議論できる話ですが、あえて上2つの写像を関数で統一して考えます。

そうすると、$x \in \mathbb{R}$について次のようになります。

  • $(m_{2} \circ m_{3})(x)=m_{2}(m_{3}(x))=m_{2}(3x)=6x$
  • $(m_{3} \circ m_{2})(x)=m_{3}(m_{2}(x))=m_{3}(2x)=6x=(m_{2} \circ m_{3})(x)$
  • $(g \circ f)(x)=g(f(x))=g(2x)=\sin 2x$
  • $(f \circ g)(x)=f(g(x))=f(\sin x)=2 \sin x \neq (g \circ f)(x)$

このように、写像の合成の中では、順番を交換できるものとできないものが存在します。ここからも数の四則演算が交換法則を満たすことはかなり強い条件だと言えます。

前回の制限写像と像集合は、合成写像の像集合として現れます。

2つの写像$f:X \rightarrow Y,g:Y \rightarrow Z$について合成写像$(g \circ f)$の像集合$(g \circ f)(X)$は、$g(f(X))$と一致します。写像の書き方と対応するように像集合も一致するのです。

そして、制限写像を使って書こうとすると$g|_{f(X)}(f(X))$と書けます。

おわりに

制限写像の理由づけのために合成写像で取り上げましたが、少し蛇足感があったように感じます。が、これはこれからのことで役立つので大丈夫です。合成は、基本的に交換法則が成り立ちません。また、自然に写像の間に演算を考えていること気づいていたでしょうか。実は、写像を元と見て数のように扱うことも可能だったりします。それほど、合成は重要な道具です。

次回は、「写像の一致」と「可換図式」について取り扱います。

以上、ケンけんでした。

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