こんにちは!ケンけんです。今回は整数の性質を整理して代数構造の「環」を定義していきます。
キーワード:整数の環(有理整数環)と環
整数環
整数は中学以来、自然数の次に単純な数としてたびたび登場しました。有理数や実数を学んだ際に四則演算で閉じる閉じないを学んだと思います。
特に整数は、加法・減法・乗法で閉じていて、除法では閉じていない数でした。
まずは、整数の計算規則を復習します。
$\mathbb{Z}$:整数($Ganze Zahl$)全体の集合
$+: \mathbb{Z} \times \mathbb{Z} \rightarrow \mathbb{Z}((x,y) \mapsto x + y)$;加法
$\times:\mathbb{Z} \times \mathbb{Z} \rightarrow \mathbb{Z}((x,y) \mapsto xy)$;乗法
$x,y,z \in \mathbb{Z}$について
- $(x+y)+z=x+(y+z)$(加法の結合法則)
- $x+0=0+x=x$(加法で変えない数 $0$)
- $x+(-x)=(-x)+x=0$(加法の逆数 減法の一般化)
- $x+y=y+x$(加法の順序交換)
- $(xy)z=x(yz)$(乗法の結合法則)
- $1 \times x=x \times 1=x$(乗法で変えない数 $1$)
- $(x+y)z=xz+yz$ $x(y+z)=xy+xz$(分配法則)
が成り立つ。
減法は、加法の逆数を加えることとして定義されています。中学校で負の数が出てきたときに、
$$a-b=a+(-b)$$の言いかえを考えたと思います。代数学では、逆数を加えることを略記して引き算のように書いています。算数から四則演算に進むときには、引き算を主としてこちらが後から導かれるものです。代数学では、引き算が存在せず加法逆数を加えることで引き算をで説明します。
すべて現行の数学科では、中学1年の範囲であり当たり前のように使って計算をしてきました。これらは、整数が具体的であるからこそ成り立つことがわかります。そして、有理数・実数・複素数とどんどん拡張していきます。
では、逆に上の性質を持つような集合として整数を見るとどうでしょう。先ほどの引き算から加法逆数を加えることのような発想をします。
- 引き算$\iff$加法逆数を加える
- 整数が持つ四則演算の性質$\iff$四則演算の性質を持つ集合の元としての整数
どちらも同じに見えますが全然違います。整数から考えた集合の四則演算の性質は整数だからわかることです。逆に、四則演算の性質を持つ集合を先に考えると、整数はたまたま性質を持つ数なだけで他にも性質を満たす集合を考えられるようになります。いわば、性質を満たす集合という枠が道具箱で整数はその中の道具です。

例:整数と整数の持つ性質を持つ集合とのイメージ図
算数から数学に移ると、引き算よりも加法逆数を加えることが利用することが増えると思います。
そして整数は、一分野で整数論として独立するほど良い性質や有用性があることもわかるでしょう。
(もっとも、高校の段階ではひたすら場合分けや検証の分野というイメージになりやすいですが。)
ところで、なぜ約数や倍数は確認の性質の中に入れないかは、これらの性質はいれると少し窮屈になったり議論する上で混乱の下になってしまうからです。後々素数の話の時に分かると思います。
定義
とりあえず、確認で挙げた整数の性質を持つ集合として環を定義します。
$U$:普遍集合 $ \emptyset \neq R \subset U$
$+: R \times R \rightarrow R((x,y) \mapsto x + y)$;加法
$\times:R \times R \rightarrow R((x,y) \mapsto xy)$;乗法
$\forall x, \forall y, \forall z \in R$
- $(x+y)+z=x+(y+z)$(加法の結合法則)
- $\exists _{R}(x+0_{R}=0_{R}+x=x)$(加法零元$0_{R}$の存在)
- $\exists a \in R(x+a=a+x=0)$(加法逆元の存在)
- $x+y=y+x$(加法の順序交換)
- $(xy)z=x(yz)$(乗法の結合法則)
- $(x+y)z=xz+yz$ $x(y+z)=xy+xz$(分配法則)
- $\exists 1_{R} \in R(1_{R} \times x=x \times 1_{R}=x)$(乗法単位元$1_{R}$の存在)
- $xy=yx$(乗法の順序交換)
$R$:環($\rm{ring}$) $\overset{def}{\iff}$ 1.2.3.4.5.6.7.は真
$R$:可換環($\rm{commutative \; ring}$) $\overset{def}{\iff}$ 1.2.3.4.5.6.7.8.は真
$x \in R$は$R$の単元($\rm{unit}$)$ \overset{def}{\iff} \exists y \in R \; s.t. xy=yx=1_{R}$.
($y=x^{-1}$)
$R^{\times}$を単元全体の集合とする.
実は一般には、乗法の単位元$1_{R}$を定義に入れません。これを基本とする場合は、1.から6.までで環と呼び、7.を満たす場合は「単位的環($\rm{ring \; with \; unit}$)」と呼ばれます。英語の論文では明確に表示していますが基本的にはあるものとして単に「環」と呼びます。
よく見ると、逆数が集合の言葉「逆元」などに代わっていたりします。この定義は、あくまで前提条件(空集合出ない、1.~7.)を満たす集合を環と呼ぼうと言っているだけです。現段階では、この対象を見ることの有用性も何もわかりません。
確認から、整数全体の集合$\mathbb{Z}$は「単位的可換環である」と言えます。
この$\mathbb{Z}$のことを「有理整数環」と呼びます。
連続関数全体の集合
環は、高校までの例では整数しかないように思えます。ですが、他に例があります。
それが連続関数です。
関数の連続性は、実数の加法・乗法に倣った加法と乗法では保たれます。
$$f,g:\mathbb{R}上連続関数 \Rightarrow f+g,fg:\mathbb{R}上連続関数$$
より強い微分可能性でも成立するのだから、連続性でも保たれますね。引き算は、関数の$-1$倍(加法での逆元)を加えることで考えられます。では除法はどうでしょう。まぁ、すぐに無理だとわかりますね。例としては、次のようなものがあります。
$f(x)=1$(定数関数)$g(x)=x$
- $f(x),g(x)$はともに連続関数だが、$\frac{f(x)}{g(x)}=\frac{1}{x}$は$x=0$で不連続。
従って、除法では閉じていません。
では、$C(\mathbb{R})=\{f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}|f:連続関数\}$と集合を取ります。
定数関数が連続なので$C(\mathbb{R}) \neq \emptyset$です。次に、環の定義1.~7.についてです。実はこれはすぐにわかります。除法では閉じませんでしたが、$C(\mathbb{R})$の元はすべて$\mathbb{R}$に値を取ります。つまり閉じていない除法を除く実数の計算規則はすべて使ってもよいことになります。加法と乗法についてです。そうすると、実数の性質から1.~7.を満たすことはすぐにわかります。
以上から、$C(\mathbb{R})$は関数の加法と乗法によって環をなすことがわかります。
そしてこの例が、早速倍数や約数の性質を壊す環になります。
例えば、$f(x)=\sin x$も連続関数ですが約数に該当する因数は連続関数の中に存在するでしょうか。もちろん有限個で収まらなければなりません。解析学では、無限個の積で書くことができますが、それでは整数でやっていた約数が無限個存在することになってしまいます。これでは、使いづらいです。約数らしきものが考えられないのだから倍数らしき連続関数も考えられません。
ここから、約数倍数が存在するとは限らないとわかるでしょう。
そして、環では素因数分解自体が可能かも怪しくなってきます。
おわりに
初めは整数自体の性質を掘り下げて少しずつ環に話を移そうと思いましたが、あくまで環とイデアルが主題なのでいずれやるだろう整数論の記事に投げました。ただし、倍数約数を持つか怪しい環は結構存在します。(むしろこっちが主役で約数倍数は基本存在しない)いかに整数が特別できれいな環であるかが少しずつ分かってくると思います。
以上、ケンけんでした。