MOD-L-2:作用で零にならない加群 torsion-free module

こんにちは!ケンけんです。今回は、以前取り上げたdivisible moduleの双対概念とされるtorsion-free moduleについて調べたことを記事にしていきます。

キーワード:torison-free module

この記事では、環はすべて単位的可換環とします。

定義 torsion-free module

まずは、定義を挙げます。

定義

$R$:環 $M$:$R$加群 $r \in R$

$\hat{r}:M \rightarrow M(x \mapsto rx)$:$R$線形写像

$M$はねじれ自由($\rm{torsion \; free}$) $\overset{def}{\iff} \forall r \in \mathrm{Reg}R(\hat{r};単射)$

実は線形代数(体上の加群)では、ただの単元倍なので意味のない概念です。

環上の加群論では、よくねじれ元の話が出てきます。$x$がねじれ元であるとは、ある正則元$r$により$rx=0_{M}$となることで、$\hat{r}$が単射にならないことを意味します。この視点から、$\rm{torsion \; free}$な加群は、任意の元が環の正則元で零化されないことを意味します。

参考文献では、1.と3.は明らかとしています。1.と2.は、divisibleの方では言及されていた命題です。そして3.は、$\rm{torsion \; free}$であることは部分加群でも引き継がれることを示しています。

命題1

$R$を環とし, $M$を$R$加群とする. 

$N,P$を$M$の部分加群として次のことが成り立つ.

  1. $N,M/N:\rm{torsion \; free} \Rightarrow M:\rm{torsion \; free}$
  2. $N,P:\rm{torsion \; free}$かつ$N \cap P=0 \Rightarrow N \oplus P :\rm{torsion \; free}$
  3. $M:\rm{torsion \; free} \Rightarrow N:\rm{torsion \; free}$
証明 命題1

1.

$m,n \in M$を取り, 任意の$r \in \mathrm{Reg}R$について$rm=rn$を仮定する.

このとき, $r(m-n)=0_{M} \in N$である.

よって, $r (\overline{m-n})=\overline{r(m-n)}=\overline{0_{M}}$.

$M/N$は$\rm{torsion \; free}$より$\hat{r}:M/N \to M/N$は単射である.

従って, $\overline{m-n}=\overline{0_{M}}$となり, $m-n \in N$である.

$r(m-n)=0_{M}$は$\hat{r}:N \to N$において$m-n \in \mathrm{Ker}(\hat{r})$.

$N$が$\rm{torsion \; free}$より, $m-n=0_{M}$となり$m=n$。

よって, $\hat{r}:M \to M$は単射であり$M$は$\rm{torsion \; free}$である.

2.

任意の$r \in \mathrm{Reg}R$を取り, $\hat{r}:N \oplus P \to N\oplus P$とする.

$\mathrm{Ker}(\hat{r})=\{0_{M}\}$を示せば十分.

任意の$m+n \in \mathrm{Ker}(\hat{r})$に対し, $r(m+n)=0_{M}$.

よって、$rm=r(-n) \in N \cap P$となる.

$N \cap P=0$より, $rm=r(-n)=0$である.

$N,P$が$\rm{torsion \; free}$より, $m=n=0$である.

以上から, $m+n=0_{M} \in \{0_{M}\}$である.

3.

任意の$r \in \mathrm{Reg}R$と$m,n \in N$を取り, $rm=rn$を仮定する.

$m,n \in M$として見ると, $\hat{r}:M \to M$は単射より$m=n$である.

従って, $\hat{r}:N \to N$としても単射であるため、$N$は$\rm{torsion \; free}$である.

$\square$

divisibleとの違いで、元の加群$M$や部分加群$N$での$\hat{r}$をその場その場で使い分けることで、仮定の単射性を利用する形になっています。

1.はfive lemmaを使うと簡単に示せます。

どこまで性質が保たれるか

divisibleに続き、こちらも商体や局所化の場合を考えます。

命題2

$R$:整域 $Q(R)$:商体

$Q(R)はR加群としてtorsion$-$freeである。$

証明 命題2

任意の$r \in \mathrm{Reg}R$と$x/s ,y/t \in Q(R)$を取り, $r(x/s)=r(y/t)$を仮定する.

このとき, $r(x/s)=rx/s=ry/t=r(y/t)$である。

よって, ある$v \in \mathrm{Reg}R$で$v(t(rx)-s(ry))=0_{M}$が成り立つ.

$vr \in \mathrm{Reg}R$より「$vr(tx-sy)=0_{M} \Rightarrow x/s=y/t$」である.

以上から, $\hat{r}:Q(R) \rightarrow Q(R)$は単射より$Q(R)$は$R$加群として$\rm{torsion \; free}$である.

$\square$

torsion-freeでも次の命題が成り立ちます。

命題3

$R$を環とし, $M$を$R$加群とする. 

  1. $\forall S \subset R(S:\rm{積閉集合})(S^{-1}M:$\rm{torsion \; free}$)$
  2. $S=\mathrm{Reg}R \Rightarrow S^{-1}M:\rm{torsion \; free}$
証明 命題3

1.

任意の$r \in \mathrm{Reg}R$と$x/s,y/t \in S^{-1}M$を取り, $r(x/s)=r(y/t)$を仮定する.

このとき, ある$v \in S$で$v(rtx-rsy)=vr(rx-sy)=0_{M}$が成り立つ.

$vr \in \mathrm{Reg}R$より, $\widehat{vr}:M \rightarrow M$は単射である.

$rx-sy \in \mathrm{Ker}(\widehat{vr})=\{0_{M}\}$より$rx-sy=0_{M}$である.

よって, $x/s=y/t$から$\hat{r}:S^{-1}M \rightarrow S^{-1}M$も単射である.

以上より, $S^{-1}M$は$R$加群として$\rm{torsion \; free}$である.

2.

任意の$r \in \mathrm{Reg}R$と$x/s,y/t \in S^{-1}M$を取り,$r(x/s)=r(y/t)$を仮定する.

このとき, ある$v \in S$で$v(rtx-rsy)=vr(rx-sy)=0_{M}$が成り立つ.

$vr \in \mathrm{Reg}R =S$より$x/s=y/t$である.

従って,$\hat{r}:S^{-1}M \rightarrow S^{-1}M$は単射である.

以上より, $S^{-1}M$は$R$加群として$\rm{torsion \; free}$である.

$\square$

この3つは、divisibleの場合での命題をそのまま$\rm{torsion \; free}$にして考えました。

しかし、前回考えた命題がまだ一つ示せませんでした。

(追記 2024/11/4)

命題4

$k$を体とし, $R$をその部分環とする.

$k$は$R$加群としてtorsion-freeである.

$R$は整域より, $\mathrm{Reg}R=R \backslash \{0\}$である.

今, 任意の$x \in k,r \in \mathrm{Reg}R$を取り, $rx=0$を仮定する.

$x \neq 0$ならば$k$の元として単元より$r=(rx)x^{-1}=0$となり矛盾する.

従って, $x=0$より$\widehat{r}:k \to k$は単射で$k$は$R$加群として$\rm{torsion \; free}$である.

おわりに

結構証明が長く冗長的になりましたが、なるべく行間をなくそうとするとどうしても局所化の部分などは書かないといけないのがつらかったです。全射から単射になることで、divisibleより成り立つことを示すのが意外と大変だったことも全射と単射の差のように感じれる題材ですね。

以上、ケンけんでした。

参考文献

前回に引き続き動機となった書籍

Eben Matlis,1973,One Dimensional Cohen Macaulay Rings,Springer

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