こんにちは!ケンけんです。前回は、座標平面や関数のグラフから直積集合を考えました。
今回は、述語の一種であった$n$-項関係を用いて集合の関係を考えます。
キーワード:集合の関係・同値関係
導入
変数が$n$個の述語を$n$-項関係と呼んでいました。例えば、次のようなものは2項関係です。
このように整数について2つ取ってきて説明してきたものはすべて2項関係です。前回の直積集合を考えたとき、2つの同じ集合から元(変数)を取る必要はないことから一般化していきました。それは述語の変数についても同様です。
つまり、変数部分をどこから取ってくるかに条件はありません。従って、直積集合と集合の元で述語を考えることも可能です。例えば次のような述語が考えられます。
このように、「四則演算」や「2つの整数とそれらの最大公約数」などに対応させることができ、その真偽により、
- $x+y=z$
- $\mathrm{GCD}(x,y)=z$
- $x^2+y^2=z$
のように説明されると言えます。
さて、直積集合と集合の元による述語は、$()$の中身がぐちゃぐちゃになり始めています。なので、2項関係について「$\sim$」を使って書くことが一般的です。この記号をもって単に「関係」とよく呼ばれます。
例えば、「$x$は$y$の倍数である。」ことについて$$ x \sim y \overset{def}{\iff} \exists k \in \mathbb{Z}(x=yk)$$と一列ですべて説明できます。具体的に数字を入れると、「$4 \sim 2$」で$4$は$2$の倍数であることが説明できます。
そして、文字や数の間に記号を入れる書き方を命題論理を学ぶ以前からよく見てきたはずです。そう、等号や不等号などの記号です。この2つは2項関係であり、$\sim$を「$=$」や「$<$」と書いてきたのです。
等号と不等号は、明らかに差があります。例えば、等号を証明するために「$\leq$」と「$\geq$」の2方向の不等号を示すことで示せます。つまり、等号関係は、不等号の関係より真とする元の制限が強い関係であると言えます。
今回の主題は、等号の一般化「同値関係」です。
等号の情報
発想の起点は、やはり数字の等号「$=$」になります。
と言っても「$=$」の性質をしっかりと考えたことはないはずです。常にそこにあるものとして使いその間の性質を調べてきました。算数では計算結果の結ぶ道具として、数学では関数や方程式を書くための記号として扱ってきたのですから当然です。
なので、等号記号の意味を仮置きとして次のようにしてしまいます。
- $2つの数x,yが同じとき等しいと言う$
- $等号記号「=」で「x=y」と定める$
かなり直感的で、「同じ」のような幅がある定義になっていますが方程式の際の等号の説明を思い浮かべると納得できると思います。
例えば、方程式を思い浮かべてください。方程式は、左辺と等辺が一致することを利用して未知数を求める方法でした。数式を天秤に乗せたおもりとみなして、「$=$」のことをつりあった状態だと説明されました。
図:方程式の天秤によるイメージ
現在では、このような指導が一般的かはわかりませんが、この発想により等号を考えるとこれまでの数学が破綻することはないでしょう。また、つり合いという、自然に置ける重量が一致することを利用しているため、より当たり前だと言えます。
なので、等号で結べることを「同じ数である」ことで考えます。
1.自分自身と一致すること
いきなり当たり前のことですが、数では一致するかしないかです。例えば、$2$は他の数と一致しません。なので、$$「2=2」であり「2=3」は成立しない$$だと当たり前に思っています。そして、これは$2$以外のすべての数でも成り立ちます。実数や複素数においても同様です。
自分自身と「$=$」で結ばれることは、命題論理での「恒真命題」だと言えます。
従って、「$x=x$」が必要です。
2.文字の置き換えができること
同じ数字が一致することは当たり前です。では、方程式らしく「$x=y$」のように等号がわかっているとします。もっと単純にするなら、「$x=2$」だとします。
これは、中学知識で一元一次方程式だとわかります。
では、「$2=x$」とわかっているとします。天秤の例を考えると、2つのおもしを乗せる側を入れ変えたところでつり合いは崩れません。従って、次のことが成り立ちます。
$$2=x \Rightarrow x=2$$
当然逆方向($\Leftarrow$)も成り立ちます。
より一般にすると、「$x=y \Rightarrow y=x$」が成り立っていると言えます。
3.等号を繋げること
同じものによる等号を考えるのならば、直接比較しなくても同じだと説明できます。例えば、3つの小銭が入った袋(これをA,B,Cとする)の重量を天秤で測ったとします。
このとき次のことがわかったとします。
- AとBの袋で測ると釣り合った
- BとCの袋で測ると釣り合った
この時、「AとCの袋は釣り合う」と言えます。なぜならば、AとCは釣り合っている袋Bと同じ重さであり、Bを経由してAとCが同じ重さだと説明できるからです。従って、次のことが成り立ちます。
$$(A=B) \wedge (B=C) \Rightarrow A=C$$
この形、どこかで見たことありませんか。これは恒真命題$$(P \Rightarrow Q) \wedge (Q \Rightarrow R) \Rightarrow P \Rightarrow R$$と非常に形が似ています。この恒真命題は推移律と呼ばれており、等号についても推移律と呼びます。天秤の例で直接測らずとも推測できること(推論している)からも字の意味から納得できます。
従って、この情報を文字で書くと次のようになります。
$$(x=y) \wedge (y=z) \Rightarrow x=z$$
この3つの性質は、天秤の例から導かれる情報であり数式での等号でも引き継がれています。逆に現実の問題を考えるために数学を設計するのだから、等号はこれらの条件を持たなければなりません。
従って、少なくともこの3つが等号を説明するために必要な情報であると言えます。
もちろん、他にも性質があるでしょうが言葉を定義するときは、最小限の言葉で説明できる必要があります。実用上、この3つだけで等号を説明できるため十分というわけです。
この3つの性質を満たす関係「$\sim$」を同値関係と呼びます。
同値関係
それでは、数での等号の情報を集合にまで落とします。
等号の部分がすべて「$\sim$」に置き換わっただけです。これら3つの条件はそれぞれ「1.反射律」、「2.対称律」、「3.推移律」と呼ばれます。
「1.2.3.が真」と書いていますが、これはもともと述語「$P(x,y)$」だったものを「$x \sim y$」と書いており、述語であるためです。そうすると、3つの条件は恒真命題ではないことがわかるでしょう。
その典型例は、不等号です。この場合、対称律が成立するとは限りません。
- $「2 \leq 4」は真だが「4 \leq 2」は偽$
- $「2 \leq 4 \Rightarrow 4 \leq 2」は偽$
同値関係が崩れる原因になるのはこの対称律です。また、与えられた関係「$\sim$」が同値関係であることを示す場合もこれが最も難しい場合が多いです。
また、狭義の不等号「$<$」なら反射律すら成立しません。
以上から、3つの条件は当たり前ではないことがわかるでしょう。
おわりに
今回は、述語の2項関係から等号の条件をピックアップして同値関係を定義しました。が、定義を見ただけでは等号以外に使い道を感じられないかもしれません。かくいう筆者も、集合論で適当に流されたために後々痛い目を見た経験があります。しかし、この記事内で他の例を出しているとあまりに長大になってしまうため本筋とは別で、同値関係集の記事も書こうと思います。
次回は、特別な関係の一つ「順序関係」を扱います。
以上、ケンけんでした。