NST-11:空っぽの集合 空集合

こんにちは!ケンけんです。前回は、2つの集合から命題論理の記号を使って新しい集合を考えました。

今回は、何も元を持たない集合「空集合」を取り扱います。

キーワード:空集合

導入

空集合は高校でも登場し、元を持たない集合でした。

空集合∅ $\cdots$要素をもたない集合

東京書籍 NEW ACTION LEGEND 思考と戦略 数学Ⅰ+A p74

今、ここで引っかかった方はここまで集合の定義をしっかり読んでいると思います。なぜなら、集合は、「明確な範囲が定まる、明確な対象の集まり」として定義しているため、この字ずらだけを受け取ると、$$「元を持たない」=「元の集まりではない」$$ため集合ではないように見えるからです。

しかし、私たちは述語を用いた定義を学んだ上、述語は命題の恒真命題が存在します。

そこでその一つ「$P(x) \vee (\neg P(x))$」を使って次のことを考えましょう。

考察 NST-11-1

$U$:普遍集合 $P(x)$:$U$の元についての述語

  1. $P(x) \vee (\neg P(x))$は恒真命題である。
  2. $\neg(P(x) \vee (\neg P(x))) \iff (\neg P(x)) \wedge \neg(\neg P(x)) \iff (\neg P(x)) \wedge P(x)$
  3. $(\neg P(x)) \wedge P(x)$は恒真命題の否定より常に偽である。
  4. $X=\{x \in U| (\neg P(x)) \wedge P(x)\}$と設定する。
  5. 「$x \in U \Rightarrow x \notin X$」が真である。
  6. $X$は$U$の元を持たない集合と言える。

従って、今構成した集合$X$がまさしく空集合であると言えます。

これで、述語を使うことで言語と新しい道具に頼らず「元をもたない」ことを説明できました。

定義

それでは定義しましょう。

定義 NST-11-2

$U$:普遍集合 $P(x)$:$U$の元についての述語

$\emptyset =\{x \in U| P(x) \wedge (\neg P(x))\}$:$U$における空集合($empty set$)

ここでの述語は、変数を$U$の元とするならば、任意でとっても良いです。

数学では単純なもので次のような例が考えられます。

例 NST-11-3

$\mathbb{Z}$:有理整数全体の集合 

$E(x)は真 \overset{def}{\iff} \exists k \in \mathbb{Z}(x=2k)$

$O(x)は真 \overset{def}{\iff} \exists k \in \mathbb{Z}(x=2k+1)$

  • $E = \{x \in \mathbb{Z}|E(x) \}$:偶数全体の集合($2\mathbb{Z}$とよく書く。)
  • $O=\{x \in \mathbb{Z}|O(x) \}$:奇数全体の集合

このとき「$\forall x\in \mathbb{Z}(\neg E(x) \iff O(x))$」が成り立つ。(偶数と奇数の定義から)

  • 「$E(x) \wedge (\neg E(x)) \iff E(x) \wedge O(x)$」は真である。

結果

  • $\{x \in \mathbb{Z}|E(x) \wedge O(x) \}=\emptyset$が成立する。
  • $\{x \in \mathbb{Z}|E(x) \wedge O(x) \}=E \cap O$より$E \cap O = \emptyset$

$E \cup O=\mathbb{Z}$でもある。

偶数と奇数は、定義の述語から分かれていると言えますが、集合全体でもきれいに分けられていることが空集合$\emptyset$として表れています。この例では、全体集合である$\mathbb{Z}$を偶数・奇数で分割できているため「$\mathbb{Z}=E \cup O$」となりとてもきれいです。

ですが、別に空集合が表れるのは全体集合を分割する場合だけに限りません。

例 NST-11-4

$\mathbb{Z}$:有理整数全体の集合

  • $X=\{x \in \mathbb{Z}|x:20の約数 \}$
  • $Y=7\mathbb{Z}=\{x \in \mathbb{Z}|\exists k \in \mathbb{Z}(x=7k)\}$

$X=\{1,2,4,5,10,20\}$より$X \cap Y=\emptyset$

この場合、$X \cup Y$は$3 \notin X \cup Y$だから全体である$\mathbb{Z}$とはならないです。しかし共通部分は空集合になります。偶数と奇数の例では、たまたま整数が2分割できる性質(述語)を持っていたためできたことなのです。

空集合と普遍集合

空集合$\emptyset$は、恒真命題の否定により定義されました。では恒真命題はどんな集合を指定するのでしょう。何も元を持たない集合の逆を想像すると、普遍集合と言えそうです。

述語を見ればすぐにわかります。

考察 NST-11-5

$U$:普遍集合 $P(x)$:$U$の元についての述語

  1. $P(x) \vee (\neg P(x))$は恒真命題である。
  2. $X=\{x \in U|P(x) \vee (\neg P(x))\}$と置く。
  3. 集合として$U=X$である。

従って、常に偽である命題(恒真命題の否定)を恒偽命題だと呼べば、

  • 普遍集合 は 恒真命題
  • 空集合 は 恒偽命題

に対応していると言えます。また、普遍集合$U$について$$U^{c}=\emptyset , \emptyset^{c}=U$$だと言えます。

最後に、空集合は普遍集合の部分集合であることに触れます。部分集合の定義を思い出すと、$$\forall x \in U (x \in \emptyset \Rightarrow x \in U)$$が真であることが必要です。

しかし、仮定側の「$x \in \emptyset$」が偽であることが、空集合の定義からわかります。「ならば($\Rightarrow$)」は仮定側が偽の場合、強制的に真になると決めていました。

従って、今考えている命題も勝手に真となり「$\emptyset \subset U$」が常に成り立つことがわかりました。

全体集合$U$だけでなく、任意の集合$X \subset U$についても$$\forall(x \in \emptyset \Rightarrow x \in X)$$で、仮定が偽となるため同様の議論ができます。従って、空集合はすべての集合の部分集合であることがわかりました。

おわりに

「元を持たないこと」も、元を書き下せない集合においては述語論理により説明できてしまいます。この先も命題による集合の理解が重要か感じてえもらえると嬉しいです。また、空集合について、普通の集合(普遍集合の部分集合)との和集合や共通部分についてここでは書きませんでしたが、数字の0のような性質が和集合と共通部分について見られます。実際に手を動かして調べてみてください。

次回は、べき集合を取り扱います。

以上、ケンけんでした。

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