こんにちは!ケンけんです。前回は書き下せない集合でも同じだと言える方法を集合の一致($=$)として定義しました。
今回は、付録のような形で2つの元が同じであることを議論します。気にならないと思う方は読み飛ばして構いません。
キーワード;元の一致
導入
まず2つの元(もの)が同じであると言う場合は、名前が一致しているかを調べます。
これらは、元ごとに名前がと決まった上で書き下せているため、同じだと言えます。
しかし集合を扱う上で大切なことは、書き下せない対象も集合として記述できることです。
整数全体の集合$\mathbb{Z}$で考えます。元$x , y \in \mathbb{Z}$を取るとき、どのようにして$x$と$y$が同じであると言えるでしょう。$x$と$y$は、$\mathbb{Z}$の元であることしか説明されていないので、四則演算や等号、不等号が使えません。数としての$=$はまだ定義していない順序関係に従っています。そして、順序における$=$も元としての一致を意味するだけなので、元として一致することの説明にはならないのです。
他の例として、複素数の集合を考えます。$\mathbb{C}=\{x+ y\sqrt{-1} |x , y \in \mathbb{R}\}$($\mathbb{R}$は実数全体の集合)と定義して2つの複素数$z ,w$を取ります。このとき、$z$と$w$が一致するとはどのようにして決めるでしょう。整数と違って複素数には大小関係がありません。では、実部と虚部の一致を使えばいいと思うでしょう。実際、2つの複素数が一致する($=$)とは、実部、虚部が同じことでした。しかしこの方法は、実数での一致を使ってしまい整数と同様に順序を使わない一致を決めないことには使えないはずです。
ではどのように解決すればいいでしょう。今使うことができる2つの何かが一致することは
- 命題の同値($\iff$)
- 集合の一致($=$)
の2つです。そして元は集合の用語なので集合の一致を用いて説明できそうです。
例えば、先ほどの整数の例では$x \in \mathbb{Z}$の性質として
- $1,x,3で連続している \Rightarrow xは2$
- $xは3の4倍である \Rightarrow xは12$
といった風に整数と言ってもそれぞれの数だけが持つ性質があります。従って、この「性質」述語に置き換えてしまえば、集合の一致が考えられるようになります。
そこで適当な集合$X$ とその元$a,b \in X$で次の2つの集合を考えてみましょう。
$$A=\{a \},B=\{b \}$$この2つは集合$X$のただ一つの元からなる集合です。そして集合ということは集合の一致を適用できます。集合$A,B$を述語を使って$$\begin{align}A=\{a \}=\{x \in X|P(x) \} \\ B=\{b\}=\{x \in X|Q(x) \} \end{align}$$と表記します。このとき、$$\forall x(P(x) \iff Q(x))$$が言えれば、$A=B$と言えます。そしてともに一つしか元を持っていないので$x$と$y$が全く同じ元であると決めても直感に反さず問題なさそうです。
以上から、元の一致は集合の一致で特徴づけられそうです。
元の一致
それでは導入で得た事柄から元の一致を定義しましょう。
これで命題論理からの流れを崩さずに「元が同じ」ことを説明できるようになりました。そして、前回私たちは部分集合を定義しています。2つの元が等しいかは一つの元からなる集合の一致を考えるため一方の部分集合さえわかれば、自然と一致すると言えます。
$\{x\}$と$\{y\}$はそれぞれ一つずつ元を持つ集合です。
$\{y\}=\{z \in X|Q(z) \}$と定義して、$x \in X$を取ります。述語$Q(z)$は、集合$X$の中から一つの元$y$だけ指定する(真になる)ため、「$\exists ! z \in X(Q(z))$」が真となります。「$x \in \{y\}$」が示せると$Q(x)$が真となりますが、変数は一意的なので$\{x\}=\{z \in X|Q(z)\}$と定義しても一つの元の集合に戻すことができます。そして、$\{z \in X|Q(z)\}$はもともと$\{y\}$でした。従って、$\{x\}=\{y\}$であると説明することができます。
以上から、$\{x\} \subset \{y\}=\{z \in X| Q(z)\}$を示せば
- $Q(z)$は$y$だけで真 $\Rightarrow$ $\exists ! z \in X(Q(z))$
- $Q(x)$が真 $\Rightarrow$ $Q(z)$は$x$だけで真
- $\{x\}=\{z \in X|Q(z)\}=\{y\}$
の流れで$x=y$を示したことになります。この議論は、「$\{x\}$と$\{y\}$は一つしか元を持っていないので、一方が部分集合なら自然と集合として同じである」と直感に反しない流れになっています。
2つの元がどちらも指定する述語しかわかっていない場合も、一方の元を明らかにすることで上の議論が使えるようになります。ここから定義は次のように条件を緩めることができます。
「かつ($\wedge$)」よりも「または($\vee$)」の方が調べるのは簡単なので、元の定義より弱まったと言えるでしょう。
再考
先ほど考えられなかった整数と複素数についてこの定義で元の一致を説明してみましょう。
述語は、一つの元だけを指定できるものならば何でもよいです。$2$の場合は、自然数の公理の一つである後者を用いて「$xは1の後者1+1である$」と条件づけることもできます。これは定義なので数字の性質(不等号や加減乗除による$=$)を一切使っていません。「隣接する整数」は、後者の存在からを使うことができ、数字の性質(不等号や加減乗除による$=$)を使っていないことがわかります。
複素数についても$1$と$\sqrt{-1}$の係数が$2$と$3$であることで、$2+3 \sqrt{-1}$を指し示せます。従って、$$係数が等しいこと \iff 数として等しいこと$$であり、整数での等しいことに戻ってきます。
例では、非負整数(自然数)のみに絞っていますが、整数、有理数、実数、複素数をしっかり定義するとそれぞれの元を一つだけ指定できる述語を作ることが可能です。
おわりに
今回は、素朴集合論ではあまり議論されていない元の一致について取り上げました。私の手元にある書籍には、そもそも言及されていないか数字の$=$と同じように扱うと説明しており議論を回避しています。しかし、それでは今後「写像」を扱う際に数字ではない元についても当然のように使ってしまっています。そこが、少し納得できなかったため命題論理から設定してみました。また、今回の定義でも普通の数字の一致には適用できます。なので、気にならない場合は、一般の書籍のように数字の$=$として認識しても問題ありません。
次回は、空集合を扱います。
以上、ケンけんでした。