NST-8:集合 その記法

こんにちは!ケンけんです。前回は、述語の変数に条件を付ける存在と全称を取り上げました。

今回から、本格的に集合を取り扱っていきます。

キーワード:集合

導入

まずは高校での集合に立ち返ってみましょう。

例 NST-8-1

野菜室には野菜「$キャベツ、アスパラガス、なす、キュウリ、ほうれん草、かぼちゃ$」がある。

  1. 野菜室の野菜すべての集合$U$は$\{キャベツ、アスパラガス、なす、キュウリ、ほうれん草、かぼちゃ\}$
  2. 夏野菜の集合$X$は$\{なす,きゅうり、かぼちゃ \}$

このように対象となる名前をすべて書き下し、それぞれの野菜を集合の元と呼んでいました。より数学的には次のような例も見たことがあるでしょう。

例 NST-8-2

$1$以上$20$以下の整数は$1,2,…,20$

  1. $1$以上$20$以下の整数の集合$X$は$\{ 1,2, \ldots ,20\}$または$\{n| 1 \leq n \leq 20\}$($n$は整数)
  2. $1$以上$20$以下の偶数の集合$Y$は$\{ 2,4, \ldots ,20\}$または$\{n| n;偶数, 1 \leq n \leq 20\}$

整数だと野菜よりも制限を文字で置き換えなれているでしょう。上の例では「$1$以上$20$以下」や「偶数」という条件が付いているため、文字$n$を使った2つ目の書き方が取れました。

集合

それでは集合を定義しますが、高校での定義とさほど変わりません。

定義 NST-8-3
  • 集合$(set)$  ;明確な範囲が定まる、明確な対象の集まり
  • $(element)$;集合の対象

$X$を集合として次の2つの命題はいずれか一方のみ真となる。

  1. $x \in X \overset{def}{\iff}命題「xはXの元である」$(「$x$は$X$に属する」とも読む)
  2. $x \notin X \overset{def}{\iff} 命題「xはXの元ではない」$(「$x$は$X$に属さない」とも読む)

集合$X$は

  • { }の中に集合の元を書き並べる方法(外延的定義)
  • 述語$P(x)$を用いる方法(内包的定義)

の2通りで表される。

まず、定義部分で「明確な範囲が定まる」とあります。これは「$x \in X$」とその否定「$x \notin X$」の2通りがあり、排中律($\neg(P \wedge (\neg P))$)からどちらか一方しか成り立ちません。従って、集合に属する元の範囲は定まると言えます。

では、「集まり」とは何でしょう。高校大学に関わらずほぼ上のような書き方をしていますが、定義していない言葉を使ってもいいのでしょうか。実は、「明確な範囲が定まる」部分が崩れる逆説(パラドックス)が起こります。有名なもので「(集合の集まり)は集合ではない」があります。

よって今の定義は問題があるとわかりますが、実際はそこまで論理的厳密性が要求される場合は少なく、上の定義で問題なく議論ができます。

納得できない場合は、初等幾何学での「点」と「線」を思い浮かべれるといいです。これらは無定義用語で、

  • 点とは部分をもたないものである。
  • 線とは幅のない長さである。
共立出版,  解説 中村 幸四郎 寺阪 英孝 伊東 俊太郎 池田 美恵, ユークリッド原論 追補版 p1

と定義しています。ここでも「部分」や「幅」、「長さ」を直感的な意味で用いています。しかし、そこから多くの定理・命題を導けておりこれまで幾何学の足掛かりとなってきました。

つまり、直感的意味で言葉を使った議論もあまり問題にならないのです。問題が起こるのは、前述の「パラドックス」や「定義の反例」を見つけて、その先を研究するための障害になった場合です。逆に、障害を解消するために新しい数学が生まれるとも言えます。

そして、先の定義で集合を学ぶことは、現在確立されている「基本的な」数学は問題なく議論できることを意味しています。

次に、集合の書き方についてです。

  • $\{a,b,c, \ldots \}$(外延的定義)
  • $\{x|P(x)\}$(内包的定義)

内包的定義では、集合の元は述語$P(x)$を真とする変数$x$として決めます。従って、

  • $x \in X \overset{def}{\iff} P(x)は真$
  • $x \notin X \overset{def}{\iff} P(x)は偽$

と「$\in$」「$\notin$」を定めることができます。

導入の例で挙げたように、$1$以上$20$以下の整数の集合を

  • $\{ 1,2, \ldots ,20\}$         $\cdots$ (外延的定義)
  • $\{n| 1 \leq n \leq 20\}$($n$は整数)  $\cdots$ (内包的定義)

と書くことができます。

書き方の差

集合には2つの記法がありましたが、書き下す方法には重大な欠陥があります。それは、書かない元を「$\ldots$」で処理する点です。

以下では、$1$以上$20$以下の整数の集合を$X$とします。

$X$として「$\{ 1,2, \ldots ,20\}$」を取ることは問題ありません。逆に「$\{ 1,2, \ldots ,20\}$」と書いた場合には$X$だとは言えません。なぜなら、「$\ldots$」の中身が

  • $3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19$

($\{1,2, \ldots ,20\}$は$X$の場合)

  • $4,5,10$       

($\{ 1,2, \ldots ,20\}$は$20$の約数の集合の場合)

の2通り考えられるからです。

考えている数が「整数だけであること」や「大小の順序で並べていること」が明記されている場合は、「$\ldots$」としても省略した数を誰でも推測できるので問題ありません。

つまり書き下す方法で「$\ldots$」を使って省略する場合、

  • 考えたい集合の元が何かわかっていること
  • 考えたい集合の元の並びが誰でもわかること

そして、

  • 元が書き下せるとわかっていること

 の3点が必要です。

高校では、問題文に明記し(例:「$n$は整数」など)、「$\ldots$」で省略する場合の問題を回避していました。しかし、集合の記号だけで説明できなくては記号化する意味がありません。

高校数学で命題論理や集合に必要性を感じにくい要因は、元やその並びがわかっている自然数か整数のみが考える対象で、元を書き下せることにあると思います。しかし、書き下せない元(有理数や実数など)を扱う場合、外部から補助しても問題が発生します。2つの分数(例えば$\frac{1}{2}$と$\frac{1}{3}$)の和を2で割る操作$$\frac{\frac{1}{2}+\frac{1}{3}}{2}$$を何回でも可能で、無限個存在すると言えます。従って$0$以上$1$以下の有理数は、書き下すことは不可能です。

述語$P(x)$を使った書き方は、「元であること」が「$P(x)$が真であること」だけなので、並び方や書き下せることは必要ありません。$\{n| (nは整数) \wedge (1 \leq n \leq 20)\}$は、「$n;整数$」と「$1 \leq n \leq 20$」が与えられており、$X$だと言えます。

「$n;整数$」が気になる場合は、変数自体に条件を書く方法があります。整数全体の集合は$\mathbb{Z}$と一般的に書きますが、$X$を記述するときに$$\{x \in \mathbb{Z}|1\leq x \leq 20\}$$と書きます。元$x$に$x \in \mathbb{Z}$と前提がつくことで、

  • 考えたい集合の元は何か「$x \in \mathbb{Z}$」
  • その元はどのような述語を真にするか「$1\leq x \leq 20$」

が一目見てわかり、使いやすい書き方が得られたと言えます。基本的に、集合を考えるときは上記のような変数の前提が決まっており「宇宙($universe$)」や「普遍集合($universal set$)」と呼ばれます。高校では全体集合と呼ばれています。

今後は、書かずとも普遍集合$U$内で集合$X$を考えているものとします。なので、$\forall x$と書かれた場合はすべて普遍集合の元とみなして大丈夫です。

まとめ

以上で集合の定義と書き方が定まりました。結果的に高校での集合と変わらない定義ですが、述語だけですべて読み取れることは大変便利です。今はそこまで恩恵を受けられませんが、数学を取り組むほどその使いやすさを知ることになるでしょう。

以上、ケンけんでした。

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