CR1-0:加群やイデアルの分解 準素分解

こんにちは!ケンけんです。このCR1は準素分解という手法についての記事群になります。

素因数分解から考える

中学3年生の数学で次の「素因数分解」というものを誰しも学んだことでしょう。

  • 素数   ・・・$1$とその数のほかに正の約数がない正の整数
  • 合成数  ・・・$1$でも素数でもない正の整数
  • 素因数分解・・・合成数を素数の積で表すこと
東京書籍 NEW ACTION LEGEND 思考と戦略 数学Ⅰ+A p378

高校で整数論を学んだ方なら次の特徴があることも知っているでしょう。

定理 CR1-0-1

全ての正の整数は素数の積に順序を除き一意的に分解される。

これは素因数分解の一意性(算術の基本定理)と呼ばれ初等整数論だとカギになる考えの一つです。

一意性は強力な性質で、何か構造を考えるときに大抵一意性(ほかには対称性など)をまず考えて、枝伸ばしで議論することが多いです。

先の素因数分解が成り立つため高校での整数問題が成立しています。

素因数分解は縛りが強い? 

では、素因数分解は万能かといわれるとそうではありません。例えば次のような数では成立しません。

例 CR1-0-2

$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]=\{x+y\sqrt{-5}|x,y \in \mathbb{Z}\}$において

$6=2 \cdot 3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$と2通りの数に分解できこれ以上分解できない。

このタイプの数では素因数分解の一意性が成り立ちません。

原因は2項目の純虚数$\sqrt{-5}$です。つまり$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$は、複素平面上で実部に整数値、虚部に$\sqrt{5}$の整数倍の点を取る複素数の集合です。

整数じゃないと思えそうですが、これも整数全体と同じタイプの数で代数的整数と呼ばれます。

$2,3$のほかに$1+\sqrt{-5},1-\sqrt{-5}$も素数のようにふるまえてしまうのです。

また、正の整数の制限を外して素因数分解しようとすると$-2,-3$といった負の素数をも認めてしまうもので分解$6=(-2)\cdot(-3)$を許してしまい、$\mathbb{Z}$でも素因数分解の一意性がかなり縛りの強く危ういものであることがわかります。

では素因数分解の考え方は、狭い世界だけのものかというと、当時の数学者は似たような考えました。それがイデアル(ideal)・環(ring)・準素分解の考えでした。

そしてその手法は数よりも数を含む集合について分解を考えます。

調べていくと準素分解は素因数分解の一般化であることもわかります。

扱う内容

具体的に、次の視点で扱います。

  • 準素イデアル・準素加群 その性質
  • ネーター環上の準素分解
  • 随伴素イデアル(associated prime)

まず、素因数分解が環の目線で何が起こっているかから整理していきます。

扱う例は整数環$\mathbb{Z}$や多項式環$k[x_{1}, … ,x_{n}]$)です。

可換環の例といえば大体この2つで、例示の際は用いていきます。

そして、加群の場合の議論も並行しておこないます。

本によっては加群の一般論のみのものがありますが、動機づけのため環と比較して進めます。

また動機は高校数学からですが、さすがに大学の集合論については前提とします。そうしないと、日本語で説明する手間が増えてしまうので。集合論については次のページで連載しています。

また、環の基礎部分については次のページで連載しています。

終わりに

こんな可換代数やってる方以外は知らない内容ですが、調べようとした方の助けになれば幸いです。

というのは建前で本音は自分が準素分解について勝手に語りたいだけなんですけどね。

以上ケンけんでした。

参考文献

  • IDEAL THEORY D.G.NORTHCOTT 著 
  • 可換代数入門(原題:Introduction to Commutative Algebra)M.F.Atiyah, I.G.MacDonald 著
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